「あおい! また勝手に仕事部屋に入っただろ!」
それから俺は、彼女の方から別れたいと、そう言ってもらうよう仕向けた。彼女も、俺には興味がないみたいだし。これで、ちょうどよかったのかも知れないな。
「(またいつか。もう一度会えるのなら……)」
……やり直したい。もう一度。俺を好きになってもらうために必死になっていた、あの頃のように。
「あ。……ご。ごめんなしゃい……」
「(ごめんは、こっちの方だ)」
気づかれたくなんてなかった。あおいにだけは。もちろん彼女にもだけれど、あおいの方がよっぽどよく気が付くから。
だからあおいには、これでもかというほどの拒絶をした。それはもう、知られるのが怖かったから。
そして、なんだかんだでそんな日々は半年以上続き、信じられないくらい家の中は怒鳴り声ばかりで、毎日拒み続けてきた。彼女も、俺のことがもう好きではないくせに、あおいにばかり当たっていた。
あおいを助けてあげたかったけれど、俺は……それをしてしまって、あおいに気づかれるのが怖かった。できなかったんだ。
そして、とびきり暑い夏。ようやく彼女は俺に、離婚届を突き出してきた。
「(……俺はね、くるちゃん。まだ、婚姻届すら出してないんだよ)」
限界だと言われた時は、結構キツかった。そこまで俺は、彼女に何をしたのか。未だにわからない。
「(それでもこれから先、俺にはくるちゃんしかいないんだよ)」
だから守りたいんだ。大切な二人を。幸せになって欲しいんだ。俺が、……巻き込んじゃいけない。
「俺は絶対に引き取らない」
俺だけでいいんだ。足枷をつけられるのは。……俺だけでいい。翼を折られるのは。俺だけで。
きっと彼女なら、やさしい彼女なら、あおいのことを守ってやれる。たとえ離婚して名前が元に戻っても、頭がいい彼女のことだ。なんとかしていけるだろう。
だから、最後まで諦めてなかった。きっと最後には、あおいを引き取ってくれると。そう言ってくれると思ってたから。
「あおい? 海はとっても静かな場所なんだよ?」
「うん! しょうだね! おとうしゃん!!」
でも、もうダメだった。彼女はあおいでさえも。そして、引き取ってくれないくらいには、俺のことが嫌いになったらしい。
「(ここは……)」
確かに、望月の場所と言えばそうかも知れない。何もかも任せたのは俺だ。今更変更なんてできないし、任せていれば、彼女ならきっと思い直してくれると思ってたから。
「あおいが、まだ知らないようなことが、この海の向こうにはたくさんあるかもしれないよ?」
「……!! しょっかー! もっと、いりょんなこと、しりたいなあ」
巻き込みたくない? ……そんなのもう、最初っから巻き込んでるじゃないか。
彼女に会ってから、彼女をどうしても手に入れたかった。……ただの、子どものような俺の我が儘に。彼女も。そしてあおいでさえ。……本当、迷惑極まり無いな。
「そうだね。俺も行けないけど、きっとあおいなら、俺らがいなくても大丈夫だ」
「……? おとう、しゃん……?」
海外など、行けるわけないだろう。
どうして彼女は、こんな海を選んだのか。あおいのことでさえ、嫌いになったのか。
「あおい。いってらっしゃい」
「っ、お、おとう、しゃんっ!!」
こんな共同作業、したくなかったな。



