でも、結局は出せないまま。ある日を境に、その幸せは壊れ始める。
「……あれ? くるちゃんまだ帰ってないの? あおい」
「うん。しょーだよおー……」
あおいが最近、彼女にばっかり懐いてる気がする。これも負けていられない。なんとかして、俺にも懐いてもらいたい!
「あおい! 今日はお父さんがご飯を作ってあげよう!」
「いやー!」
「ええ!? なんでえ!?」
「おかあしゃんのほうがおいしい!」
「いやまあそうだけどさ……」
何かあったら連絡があるだろうし、下準備くらいならしておこうかなって思って着替えをしようとしたら、彼女は帰ってきた。
「(またそんな服着て……)」
何かあったら。そして俺が着てみて欲しかったから、前に一度だけドレスをプレゼントしたんだけど。……まあそんな機会もなく、タンスの肥やしとなっていた。それを、最近彼女はよく着ている。
「最近遅いね? どこに行ってるの?」
どうやらお友達ができたみたいだ。
それはとってもいいことだ! 今度会わせてもらおう! そう、思っていたんだけど。……あおいが言ったんだ。
「きょうは、どっち??」かと。「すばるくん?? それとも、けいいちくん??」と。「おしゃけ! おいしかった??」かと。
……よく気が付く子だ。そしてそれは、今まで間違っていたことはなかった。
「……くるちゃん」
「ん? なーに?」
どういう、こと。
「……お酒、飲んだの」
「うん」
……未成年、なのに……?
「どこで」
「ホストクラブ」
どうして。ホストクラブなんか……。
「なんで」
「なんでって、そういうとこに行く人たちが何を求めてるのか、あなたも知ってるんじゃない?」
おかしいと思ったんだ。最近、お金が妙に無くなりすぎている。それに彼女も。ただ疲れて帰ってるだけかと思ったけど。ふらついてたのは、……お酒のせい?
「なんでそんなところ行ってるの! 今すぐやめて!」
ていうか未成年なんだから、犯罪だからね?!
でも、彼女はこう言うんだ。
「浮気してるようなあなたに言われたくなんてないわ」って。「あーあ。見つかっちゃった。これからどうしよー」って。「え? そんなの、本気に決まってるじゃない」……って。
「……ちょっと冷静になれば。俺も、ちょっと一人になりたい」
そう言って去ろうとしたら、去り際に「冷静も何も、本気で言ってるんだもの。でも、わたしも一人になれて嬉しい」なんて言うもんだから。
「――あっそ」
キツい拒絶の言葉しか。出せなかった。
それから俺は、仕事部屋へと入って、一人で考えた。
「(……どどどど。どおしよおおぉ~……)」
くるちゃんの愛が……。くるちゃんの愛がっ。他の男にいいぃ……。
「(なんでかな。俺なんかした? 浮気なんてしてないよ? ていうか相手あおばだし。ただプレゼント選んでもらってるだけだし。でもまだ決められてないけどね……!?)」
パニックだ。それはもう、完全にパニックだ。
「(愛を。愛を取り戻すためにいいぃ~……)」
サプライズを、バラすしかないんだろうか。でも、流石に勘違いされたままだし、ここは正直に――。
「……もしもし? どうしたの?」
そう思ったら、スマホが鳴った。こんな夜遅くに誰だろうと思ったら、相手は爺やだ。
その言葉に、すぐに返答は返って来なかった。
「……爺や? どうしたの? 爺や?」
『……カナタ、様』
どうしたというのか。歯切れが悪く、どこか声が暗い。
『……お話ししたいことが御座います。夜遅くに申し訳ありませんが、外でお会いすることは可能でしょうか』
「え? ……今?」
『はい。急を要するので御座います』
「……わ、わかった」
彼女に謝りたかったけど、爺やが言うならしょうがない。



