すべてはあの花のために➓


「悪いねあおば。遅くまで付き合わせちゃって」

「いいえ構いません。……わたしなんかで、お役に立てるかわかりませんけれど」


 あおばに、偽物とはいえど記念日だからと、今年は何かを彼女にあげたくて一緒に選んでもらっていた。


「何言ってるの。自信を持って言えるよ! 俺よりくるちゃんに詳しくてちょっと妬いてる!」

「ふふ。そんなことありませんよ? かなた様は、よくくるみさんを、くるみさんはよくかなた様をご存じだなと、お話を聞いていて思います」


 まあ、ついでに言うと。流石に、出そうかなと。彼女に言おうかなと。そう思って、あおばに相談してたりした。だから帰りが遅くなってたっていうのもある。


「……あのさあおば。もうあそこの家政婦でも何でもないんだよ? その、……様って言うのやめない?」


 あおばはそこを離れても、決して俺を『使える主』である象徴を取ろうとはしなかったし、どこか線を引かれてる気がしてる。だから今年こそはと思って、俺もお友達大作戦をただ今決行中である。


「……申し訳ありませんかなた様。これはもう癖のようなものですので。体に染みついているんです」

「あおばがそう言うなら諦めるけど……」


 でも、彼女が朝日向へ来たのは、俺が高校に上がった頃のことだ。そんなに体に染みつくほどいたわけではないから、あおばもあおばで何か事情があるんだろうと思って、それ以上は聞かなかった。


「はいあおば。誕生日おめでとー」

「え……?」


 だから、そのお友達大作戦のために、まずは物で釣ってみた! というのは半分冗談で。ただ単に、いつもお世話になってるからそのお礼だ。


「今日だったよね? いつもありがとうあおば。それから、俺の我が儘に人生棒に振ってまで付いてきてくれて、ありがとう」

「……そんなこと。一度だって思ったことなど……」


 目の前に出している紙袋を、あおばは信じられないくらい大きな目を見開いて見つめていた。


「……覚えて。いらっしゃったんですか……?」

「え? うん。俺、人の誕生日は覚えるの得意なんだー」


 受け取ってくれないから、手を掴んで握らせた。まあ俺が選んだものだし、あんまりお礼になってないかも知れないけど。


「……。ありがとう。ございます……」

「いや、そんな大したものじゃ……」


 大事に大事に、それを胸に抱えているあおば。……あの。中身は本当に全然大したものじゃないから。期待されすぎて怖い……。


「それはそうとあおば。最近遊びに来てないんだって?」

「……!!」


 彼女が、最近あおばが来なくて寂しいって言っていた。今までは定期的に会ってたのに、いきなりどうしたんだろう。それに、俺には会ってくれてるし。


「あ……。あぁあぁあぁ……。あのぉぉ……。そそそそ……。そのぉぉぉ……」

「あ。い、いいよ? 言えないなら言わないで。何か理由があるんでしょ」


 あおばは嘘が付けない分、言いづらいことは異常にどもる。それが、ちょっと面白いけど。


「す。……すみません」

「ううん。でも、何か困ってるの? それなら俺が助けるよ。いつも助けてもらってるし」

「い、いえ。大丈夫なんですが。しばらくは行けそうになくて……」

「そうなんだ。うん! わかった」


 でも俺とは会ってくれるから、家に来られないんだろう。……え。くるちゃんと喧嘩でもした? いや、でもそんなこと言ってなかったし、くるちゃんがそんなことするわけないし……。


「……かなた様? 今日ももう遅い時間です。早く戻られた方が……」

「あ! そうだよね、ごめん。女性を夜遅くまで連れ歩いちゃ不味いよね」

「い、いえ。わたしはかなた様を心配して……」

「それじゃあ帰ろう。送るよ」

「……はい。ありがとうございます」


 それから、遅くなってしまったけど、あおばを送り届けて、俺は帰宅した。