すべてはあの花のために➓


「今、どこに向かってるの?」

「流石に俺の家には連れて帰れないから、俺の別荘に取り敢えずくるちゃんは住んでもらおうと思ってるよ」

「……? お家、行けないの? きちんとご挨拶しないと。お世話になるんだし」

「……くるちゃん。あのね」


 それから彼女に、俺の出自を教えた。
 ジェット機で来るぐらいだから、何となくはわかっていたんだろうけど。だって彼女は、頭がいいから。


「……そう。だから、駆け落ち……」

「あ。くるちゃんそれは」

「どういうことでございますかあああー!?!?」


 大きく機体が揺れた。二人で一緒に、ここで死んでしまうのかと思うくらい。あ、爺やもいたんだった。


「まあ爺や、そういうことだから!」

「爺やは……。爺は。カナタ様をそのような男に育てたつもりはありませぬううぅ……」

「でもね爺や。俺は本気だよ」


 不安そうにしている彼女の手を、そっと握る。
 ……大丈夫だ。俺は絶対に、望月から君を守ってみせるし、俺たちの幸せを、掴んでみせる。


「……爺やは。カナタ様の教育係でございます」

「うん」


 次に続く言葉なんて、わかってる。なんだかんだで、爺やは俺の味方だ。


「もう一度、ちゃんと教育し直させていただきましょうぞ!」

「……あれ?」


 どうしよう。思ってたのと違ったし。味方じゃなくなったし。……うわ。これからって時に、ラスボス来た感じ。


「カナタ様! もう一度一からやり直しますぞ! 別荘で!」

「爺や……」


 でも、やっぱり爺やは飛び切り厳しくて、……飛び切り俺に甘いんだから。
 それから彼女を別荘に案内して、そこに俺も、彼女の存在はバラさないようにそこから学校へと登校することにした。


「くるちゃん。紹介するね」


 それから俺は、一番俺のことをよく知っていて、歳も近い家政婦を彼女に紹介した。


「くるちゃんが知りたがってた料理とかお掃除は、あおばが教えてくれるって」

「は。……っ。はじめ。まして……」

「こ、こちらこそ」


 せっかく別荘にいるんだし、何か覚えたいと言って彼女はこれからのために家事全般を覚えようとしていた。


「それから、くるちゃんとあおばが友達になれたらいいなと思って」

「おともだち……」

「か、かなた様! そのようなことは……」

「ダメかな? あおば……」

「……いえ。だ、だめではないのですが……」


 きっとあおばはやさしいから、彼女ともすぐに仲良くなってくれると思う。彼女にも、初めてのお友達……は、俺だったから。あ、今は彼氏に昇格したけどね!
 二番目のお友達になって欲しかった。少しでも彼女がここでの生活を楽しめるように。


「それじゃあくるちゃん。行ってくるね~」

「……うん。いって、らっしゃい……」


 そんな寂しい顔されたら行きづらいんだけど。でも、学校に行かなかったら勘付かれちゃうかも知れないから。


「すぐ戻ってくるからね(んーちゅ)」

「……!!」


 まるで新婚さんみたい。でも、俺は卒業と同時にそうするつもりだ。朝日向にも望月にも。俺らの幸せは、誰にも邪魔なんかさせない。