すべてはあの花のために➓


 そして、その時初めて爺やは、俺の後ろに隠れている彼女に視線を向けた。


「カナタ様あー!? これはっ!? これは一体どういうことですかあぁー!?!? 爺やを心臓発作で殺す気ですかー!?」

「え? そんなわけないでしょー」

「あ、あの……」


 慌てている彼女を無理矢理後部座席へと押し込んで、俺も続いて乗り込む。


「よし! 帰ろっか!」

「カナタ様ァ!!」

「わ、わたしはどうすれば……」


 それからまあ、爺やにもいろいろ話をして、上手く丸め込んだ。これぞ、教育の賜物! 流石は爺や!


「……あの。ど、どうやって帰るの……?」

「ん? ジェット機だよ」

「え」


 と言えるのかどうかはわからないけれど、俺も一機持ってるから、いつもそれで行き来してた。運転は流石にまだできなかったから、爺やを連れて来てるんだけど。


「ううぅ……。爺やは。爺やはっ。……どおじまじょおおぉ……」

「(あ。……似てる。すっごい似てる)」


 クルミは心の中で思った。流石教育係だと。


「ねえねえくるちゃん」

「く、くるちゃん……?」


 まあなんとか爺やを説得して帰ってる時に、決めた呼び名で彼女を呼ぶ。


「あれ? だめだった?」

「……ううん。嬉しい」


 俯きながら、どこか恥ずかしがっている。そんなちょっとした仕草でさえ、本当に愛おしい。


「……な、なに……?」

「あのさ。さっきものすごい強かったでしょ? くるちゃん」


 そうだ。だって、男の俺でさえ全然ビクともしなかったんだ。本気で首絞められて、……死ぬかと思った。


「どうしてそんなにくるちゃんは強いのかなって思って」

「えっと。望月の人間は、あんまり長生きとかできないの、知ってる……?」


 彼女から、家の話は初めて聞く。でも、やっぱり噂は本当みたいだ。


「それでも、昔みたいにってことはないんだけど、それでもやっぱり体とかが弱くなっていっちゃうの」

「……そう、なんだ」


 それを彼女の口から直接聞かされて、……胸が苦しくなる。


「それから、……憑きやすいっていうのも、知ってる?」


 月の神とかは関係ないみたいなんだけど、それでも昔はよく霊に取り憑かれやすい家系だったみたい。まあ、体自体が不安定だからかも知れないけど。


「だからね? 少しでも長生きするために、あの社の中は筋トレグッズがいっぱいなの」

「え」


 どうしよう、……見たい。あの社の中、すごく見たい。


「それから、絶対に憑かれたりなんかしたくなかったから、体力的にも精神的にも、あそこで鍛えてたんだ。……いろいろして」

「(意味深だ。すっごい意味深だ……)」


 知りたい。でも、なんだか知らない方が身のためかも知れないと思って、それは聞かないことにした。


「でも、そんなに強かった? 逃げられないようにはしてたけど……」

「(今度から、くるちゃんには加減というものを教えよう。じゃないと、俺の命が危ない……)」


 取り敢えず、今後の方針は決まった。うん、ひとまずはこれでいいだろう。