だったら聞いてあげようと思って、時間いっぱいまでは彼とお話をしようと思った。
「オレの父は、あれでもすぐぶちギレるんですけど」
「はは。み、みたいだね」
「オレの話を聞いている間に、キレたら父の負け。話し終わるまでに父さんがキレなかったら、オレの負けってことにしようとしたんです」
「な、何の勝ち負けなのかわからなくなってきてるけど」
「オレが勝ったら、あなたのところに連れて行けって言ったんです。オレが負けたら、しょうがないから用事なくてもメールか電話してあげるよって」
「か、かわいいね、九条議員……」
あれ、おかしいな。俺の中での彼のイメージが、とってもかわいいパパになっている。
「ていうのを持ちかけたらぶちギレられました」
「え?」
「勝負なんかしなくても、無理を承知で一緒に頼み込んでやるって」
かわいいパパなんかじゃないな。本当、とってもいいお父さんだ。
「(俺は、……そうはなれないだろう)」
それでいい。そうするように、俺は。わざと仕向けたんだから。
「あなたも、とってもいいお父さんですよ、彼方さん」
「え?」
……あれ? え?? 俺、また漏れてた??
「はい。それはもうバッチリと」
「……はは」
そんなつもりは全然ないのにな~。……ま、『いい人』なんて、お世辞で言ってくれたんだろうけど……ん?
「父にも、事情を話してはいるんです。どうしてあなたとお話ししたいのか」
さっきの父入手の時とは一転、空気が変わって真面目に話をし出そうとしている彼を余所に。
「(……あれ。そういえばさっき彼は……)」
「すみません。本当に、急ぎの用なんです。それから、……あなた以外に話したくない」
きっと、何かあってはいけないから聞き耳を立てている秘書に言っているんだろう。流石、彼の息子と言うべきか。
「……君は、一体……」
「修学旅行」
「え?」
そう呟いた彼は、一体何を話しに来たと言うんだ。
「行き先は、どこでした?」
「……京都、かな」
「そこだけではないはずなのに、あなたにとっての修学旅行先はそこだけなんですね」
「……まあ、思い出深いから」
だってあれは、俺の運命の出会いなんだ。
最初で最後。今でだって、想うのはただ一人だ。
「そうですか。……なら、新月は?」
「……え」
「それから、……運命。一目惚れ。社。戸」
「え、……え」
まさかと思いたい。まさか、なんで君のような子が……?
ただ一つ。思い浮かぶのは、その単語に共通した人物。
「それから、オタク、ゲーマー、ロールキャベツ」
「え……」
その単語で思い浮かぶのなんて……。え。エー……。
「それじゃあ最後に、…………異常。海。舟」
「……!!」
だって。その単語で思い浮かぶのは……っ。
「朝日向社長。……いいえ、カナタさん」
そう、真っ直ぐ俺を見つめてくる彼は、自信に溢れてるようで。でも、どこか懇願するような目で……。
「お忙しいのは重々承知しています。……でもどうか、オレの話を聞いて欲しい」
「……なんで、君は……」
それを知っていて尚。……俺に、何を求めるというんだ。
「どうか、お願いです。オレと一緒に。……向日葵を助けて欲しいんです」
そう言われた瞬間、俺は受話器を取り、内線のボタンを押していた。



