「社長、お連れ致しました」
「入ってくれ」
しばらくしたら、秘書が二人を連れてきた。扉に声を掛けたら、議員とその息子さんが入ってきたんだけれど……。
「この度は無理を言って申し訳ない、朝日向さん」
「い、いえ。大丈夫ですよ九条議員」
入ってきた時、驚いてしまった。……そうだよな。若く見えるけれど、俺よりも10近く上だ。大きな息子さんがいて当たり前だ。
「ほらお前も。お前が言い出したんだからな。ちゃんと挨拶して。失礼のないように」
「うん。わかってるよ」
でも、それよりも驚いてしまったのは……。
「これは次男の日向です。今日はどうしても、こいつがあなたとお話がしたいと言うんで連れてきました。……申し訳ない。普通ならこんなことは。本当に無理を言ってしまって」
「まあまあ父さん」
「お前が言い出したんだろうが……!」
「あ、……あははは」
きっとこれが彼の素なんだろうが、そんな彼を初めて見て驚いたのでもなくて。
「初めまして朝日向社長。九条日向と言います。今日は、本当に貴重な時間を割いていただき、ありがとうございます」
「……ああ。構わないよ」
初めは、それが派手だと思った。議員の息子さんが、まさか不良なの? と思ったほど。……だけど。
「(まるで、太陽のようにあたたかいな)」
それがまたよく似合っていて、彼にピッタリだと思ったんだ。
それに、やっぱりしっかりしている。見た目に反したきちっとした言葉遣いに、やはりどこか父親の面影がちらついた。
「それでは、私はこれで」
「あ。ほ、本当に行かれるんですね……」
「行ってらっしゃーい」
彼もまた、今から大急ぎで向かうんだろう。「日向! 粗相のないように!」と、扉が閉まるその時まで、父と息子の会話をしていた。
「……それで? どうしたんだろうひなたくん」
自分の娘と、同じぐらいの歳の子と話すことなど滅多にない。だから、今とても新鮮な気持ちだ。そして、……つらい。
「本当は、もっときちんと段階を経て、お会いできたらよかったんですけど……」
「ん? 大丈夫だよ。ちょうど時間も空いてるし。少ししか話はできないけど」
でも、君のような子が、どうして俺のような奴と急ぎ話したいなんて。
「……やっぱり、おやさしいんですね」
「ん? ……やっぱり?」
どういうことだろう。メディアでの発言などで、そうハッキリと判断なんてできないと思うんだけど。
「だったら別に、父さん使わなくてもよかったのかな」
「え? つ、使った……?」
じ、自分の父親を……。というか、あの九条議員を使うとか。そんな、大それたことを……。
「なんとかして一日も早くあなたとお話ししなければいけなかったんですが、どうしようかと思って」
「そ、そうなんだ……?」
そんなに急ぎの用事なら、早く話した方がいいんじゃないかな? 俺、そんなに時間ないって言ったんだけど。
「それで、これはもう父さんをとうとう手に入れないといけないのかと思って」
「は、話が見えないんだけどなー……」
「でも父さんをどうやって手に入れようかと思って、いろいろ考えたんです。一筋縄ではいかなそうでしょう? うちの父」
「え? ……う、うん。そうだね?」
「それで、一勝負しようとしたんです」
「ん? 勝負?」
どうやら彼は、これがどうしても言いたいらしい。……なんだ。ちょっと年相応なところもあって、かわいいじゃないか。



