すべてはあの花のために➓


「今年で、15年か……」


 ぽつり。そう言葉が漏れる。


「……無事ならの話だけど」


 他に、方法があったのかも知れない。でも、あの時自分にできたのは、この方法に他にない。


「はあ。……どうすればよかったんだろうな。俺は」


 後悔はしていない。こうする他なかったのだから。


「ただ、……愛しただけなのに」


 なのに何故、自分には最初から……ううん。自分だけじゃない。俺らにはなんで最初から、自由がなかったんだろう。
 商業科の学校に行ったのだって、自分の意思じゃない。最初から決められてる未来のせいだ。でも、それで出会えたのだから行ってよかったのかも知れないが、そう思うことさえ無性に苛立ちを覚える。


「……羨ましいな」


 自分も、ああして羽ばたけたらよかったのに。ただ、広い広い。青い空を。


「社長。少し宜しいでしょうか」

「ん? ああ、構わないよ」


 社長室の窓から、綺麗に羽ばたく鳥たちを見ていたら、有能な美人秘書に声を掛けられた。


「……実は今、フロントの方に九条議員がお見えなのです」

「九条議員が? 今日は、議員会議があるのでは……」


 一体どうしたのだろう。まあまだ仕事は始まってはいないし、このあと彼も行くのだろう。


「アポイントもせずに急に申し訳ありませんと。でも、至急お話ししたいことがあるとのことで」

「そうか。今日は月曜だからそんなに時間は取れないけれど、彼もそうだろう。ここまで通してくれて構わないよ」


 それはそうと、話とはなんだろうか。テレビで恐らくはお互いのことは知ってるだろうが、こうして面と話すことなど初めてで…………き、緊張する。


「そ、それなのですが……」

「ん? 何かあるのかな」

「は、話があるのは、九条議員の息子さんの方でして」

「息子さん? どうしたんだろう」


 あれかな。もしかして、会社への苦情とか? ……うわ。それは、できれば俺対処したくないな~。


「その。なので九条議員は、少し社長にご挨拶したら大急ぎで向かうと」

「息子さん、投げっぱなしなんだねー……」


 それは……まあ。安心してくれてるのは嬉しいことなんだけど。豪快というか。なんというか。


「どうされますか? 本日は10時より会議が入っておりますが」

「う~ん。まあ10時には用事も終わるだろうし、通してもらえるかな? お待たせしてすみませんって、断りも入れておいて」

「畏まりました」

「ありがとう」


 にしても、一体何の話があるというのか。息子さんに何かしちゃったのかな。どうしよ。議員さん怖いよ~……。


「でも彼は、他の議員と違ってきちんとされている方だし。その息子さんだし」


 ……息子、か。彼の息子さんは、一体いくつなんだろう。
 家族……。そんな一瞬のような幸せは、俺なんかのような奴が求めてはいけなかったのかも知れないな。