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「………………ら。こら。……日向。……日向、起きなさい」

「ん。……だ、れ……?」

「誰ってお前、呼んでおいてそれはないだろう」

「え? ……あ。とうさん……」


 今何時だ……? と思って確認したら、もう20時を回っていた。半日近く眠ってしまったらしい。


「春休みだからって、こんなぐうたらな生活をしてたら、学校始まった時が大変だぞ」

「うん、そうだね。ごめんごめん」

「ったく、こんなところで寝て。……ちゃんとご飯は食べてるのか。ちゃんと寝てるか」

「うん。大丈夫」

「春休みなんかあっという間に終わるぞ。課題はちゃんとやってるのか」

「うん。やってるやってる(レンが)」


 どうやら父さんも晩ご飯はまだみたいで、ここで食べて帰るらしい。


「父さんツバサは?」

「家にいる。今日は食べて帰るからいらないと言ってある」

「………………」

「ここでとは言ってない」


 流石父さん。オレの言わんとしていることが、よくわかってるみたいだ。


「そっか。それじゃあご飯、何がいい?」

「……? 作れるのか」

「何年母さんの世話してきたと思ってるの」

「……すまん」


 別に、そういう意味で言ったわけじゃないんだけど。


「……あるものでいい? なんか適当に作るね」

「………………」

「……何? どうしたの?」

「いや、いい嫁さんになれると思って」

「ならねえ」


 あ。ちょっと突っ込んでもらって嬉しそうな顔してるし。……突っ込むんじゃなかった。ここはスルーだったか。
 それから、ちゃちゃっとあるもので晩ご飯を作った。というか、ミズカさんがまた野菜送ってくれたせいで消費しないと勿体ないから、めっちゃ野菜ばっかの料理になってしまったけど。


「俺の健康を気にして……」

「はいはい。そういうことにしておいてあげる」


 それでも父さんは嬉しそうに食べてくれた。テレビで見るような表情じゃなくって、完全に家モード。リラックスしてる顔だ。……父さんとご飯なんて、それこそいつ振りだろう。


「いいよね、こういうの」

「ん?」

「なんかさ、すごい実感湧く」

「……日向」


 ああ、本当にオレはあいつに助けてもらったんだって。また、みんなで一緒に暮らせるんだって。ハルナのこと、大事にしてあげられるんだって。……そう、思って。


「日向。つらい思いばかりさせて悪かった」

「……父さん。だからそれは、お互い様だって」

「もう一度、ちゃんと言っておきたかったんだ」

「……じゃあオレも。ごめんね」


 わかっていたのに、父さんに母さんの気持ちを、思いを言わなかったこと。頼むって言われたのに。母さんを守ってあげられなかったこと。


「今回のことは俺が悪い。気にするな」

「そんなことない。みんながみんな、悪いんだから」

「日向……」

「だからね父さん。オレは、みんながみんなに『ごめん』って言って、『ありがとう』って言って、ハルナと一緒にまた五人で暮らせたら、それでいいと思うんだ」


 誰が悪くて、誰が悪くないじゃない。みんな悪くなくて、みんな悪い。だから、ちゃんとみんなで支え合っていければ、オレはそれでいいと思うから。


「……そうだな。また、みんなで暮らそう」

「……うん」


 何でだろう。さっき味見した時は上手くできた野菜炒めが、ほんの少ししょっぱく感じた。