それから、マサキさんが落ち着いてからゆっくりと地元に帰った。
「……すまんかったなあ。日向くん……」
「何がですか? よくできた駒ですよ、ほんと」
そんな泣き腫らした目で言われても、あなたが悪いことなんて一つもないのに。
「今日はゆっくりしてください。シオンさんには言ってあるんで」
「はは。……ほんま、やさしい棋士さんやなあ……」
と言うか、マサキさんのことで連絡を入れたら、シオンさんが休ませるからってそう言ってくれただけだけど。
「マサキさん。今回のことは、誰にも言わないでくださいね」
「そうやんな。……葵ちゃんの口からちゃんと、聞かなあかんからな」
「……はい。わかってもらえて嬉しいです」
「それじゃ、……またなんかあったら言いや」
「はい。その時は必ず。……だから今は、ゆっくり休んでください」
「おおきにな~……」
そう言ってマサキさんは、ふらふらしながら組の方へ帰って行ったけど……。
「……後はシオンさんに任せよう、うん」
そしてオレは、今から命をかけた戦いをしなければ。言い過ぎなのはわかってる。でもかかってるから絶対。
だって、……父さんキレたらなかなか止めらんないんだもん。あいつの命を、オレは守らないと……!
今日は父さん仕事だから、メールを打っておこう。〈今日はオレんちに寄って欲しいなー〉……っと。
家はまだ別居中。オレが、母さんが元気になったらここで、『おかえり』って言いたいって言ったからなんだけど……。
「(本当の理由は、一人の方がいろいろと都合がいいからで)」
それは言ったら父さんにぶっ殺されるかも知れないから、内緒で話をすることにしよう、うん。
帰ったらばたんきゅうだった。流石に、ここんとこいろいろ詰めすぎた。
「……。あさひな。か……」
名前がわかって嬉しかった。それに、あいつの名前の中に、オレがいると思っただけで。胸がじんと温かくなる。
……わかった。名前……。
あいつの。……なまえ……。
「……っ。よかったっ……」
ソファーにダイブして仰向けになり、目元を腕で覆う。
これで、あいつがいなくなることはなくなった。モミジにも、ちゃんと言っておかないと。
「……よか。った。……」
そのまま、ほっとしたのか。オレは、死んだように眠ってしまった。



