「遅くなりました」


 車に帰ってきたら、彼はハンドルに突っ伏していた。寝てはないんだろうけど、……やっぱキツいか。


「マサキさんに伝言です」


 返事は帰って来ないけど、きっと聞いてる。だから、教えてあげよう。


「あの時、ここはおかしいところなんだと、改めて教えてくれて『ありがとう』と。……彼女もまた、あなたが好きだった人を救えなかったことを悔やんでいました」

「………………」


 ……そうだな。じゃあ、オレから……。


「オレが今会ってきたのは、あいつの本当の母親なんです」

「……っ、ええ?」

「あなただけには、先に言っておきます。でも誰にも言わないでください。だから、あなたがあの時あいつの母親にそう言ったから、あいつが生まれたと言っても過言じゃない」

「……い、いやいや。過言や。過言やで日向くん!」

「それは確かに言いすぎかも知れないですけど、……それでも、あなたが彼女を動かしたのは事実なんですよ」

「……そんなん。俺はただ……」

「なので、無関係では全然ないことになりますね」

「え」

「いや、事の発端と言っても過言じゃない。これは全然過言じゃない」

「えー……」


 マサキさんが、どうしたらいいんだとあたふたしていた。


「まあそれは冗談として」

「……せやから、日向くんが言ったら冗談に聞こえんねん!」

「これは、あなたに差し上げます。持っていてあげてください」

「ん? なんや…………え。……こ、れ。まさか……」


 今にも泣きそうな顔をしているマサキさんに、小さく笑ったあとハッキリと言葉にする。


「今度はちゃんと、名前を呼んであげましょう」

「…………。っ……」


 その写真の裏も見て、もう涙が溢れてる。


「……行きますよ。海へ」


 でも、少し落ち着いてからにしましょうか。