「……そうか」

「つばさ……?」

「いいんじゃね? お前がしたいならそうすれば」

「え。ガチで泣かせに行くけど」

「お前がそうするべきだと思ってんならすればいい」

「……何。あいつのこと傷つける許可くれたの?」

「バカ。傷つけるのと泣かすのは違う。別にお前、あいつのこと傷つけたいわけじゃねえだろ」

「……当たり前。でも、オレにはこの方法しかできない」

「……うん。そうだよな。俺もそう」


 そう言いながら、自分の姿を見るツバサの顔に影が差す。


「この方法が合ってるのか間違ってるのかなんて、その頃はわからなかったんだ。……だから俺は、そうしてきた」

「ツバサ……」

「でも、今はちゃんとわかる。このままじゃ一生変わることなんてないんだろうって。……気づくの、遅かったけどな」

「やめるの?」

「そうだな。……ぼちぼち、違う作戦に出ないといけないだろうな」


 ……すごい。こんなにも長い間、これがベストなんだと思っていた方法を変えるなんて。


「俺は変えてもらったよ。あいつにあの時、こうすることを決めた俺の判断は間違いじゃないんだって。でも、そろそろ気が付かないといけないって」

「……ツバサ」

「俺もわかってた。このままじゃダメなんだろうって。でも変えるのも怖かった。今までの苦労が水の泡だ。……でもあいつは、『あの時の判断を無かったことにするな』って。教えてくれたんだ」

「……え」

「決して間違いなんかじゃなかったんだって。あの時の俺にできる最善がこれだったんだから、それを否定したら今までの自分を殺すことになるって。……そう、言ってくれた」

「……そっか」

「……また、年が明けたな日向」

「……うん。そうだね」

「今年はちゃんと、母さんに俺は会いに行くから」

「門前払いにならないといいね」

「ああ。その前に必ず、父さんと決着付ける」

「……そう」


 言ってあげれば、どれだけツバサが楽になるだろうか。
 でも言ってしまって、家に来られたら大変だ。……もう、オレと話してもくれなくなるかもしれない。


「日向。俺は変わるよ。だから、母さんにお前の名前、絶対に呼ばせてやるからな」

「……どーも」

「お前が判断したんなら、それでいいと思う」

「ん?」

「今できる最善策が、あいつを泣かすことなら。そうしたらいい」

「ツバサ……」

「それが正解かもしれない。でも、もしかしたら違うかもしれない。それを教えてくれるのは、いつだってあいつだ」

「…………」

「きっと、お前もわかる時が来るよ。その作戦がよかったのか。それとも悪かったのか。……間違っていたとしても、したことは否定しなくていい。あいつもそう言う。そしたらっと今度は、いい方法が見つかるよ」


 ぽすっと。オレの頭に手を置いて、ツバサは立ち上がりどこかへ行ってしまった。


「……見つける時はもう。オレのこと、嫌ってるよ」


 だって。泣かすのは、結局自分の保身でもあったりするんだから。


「あーあ。……ほんと。オレさいてー」


 頭を抱え、しばらくそこから動けなかった。