『わたしの名前は、道明寺じゃないんです』
そうして流れてきたのは、あおいが産まれてわたしが捨てて、拾われて、引き取られた先の家でどう扱われているかという話を、あの子の言葉で、教えてもらった。
……聞いていて、胸が苦しくなった。あの子の声だと。言葉だと。……直に感情が伝わってきて。今すぐ会って、……謝りたくなる。
「こいつには、録音してたこと言ってないんです」
「……。え?」
彼は、涙を流しているわたしよりも、泣きそうな顔をしていた。
「……悪いことをしてるってわかってる。でも、こうしないといけないんです」
「……。うん。わけが、あるんでしょう……?」
「あいつを、本当の意味で助けるには、あいつの名前を呼んであげるだけじゃダメなんです」
「……。もしかしてだけど、今いる家でしてきたことが関係してる……?」
「……!!」
その反応だけで十分だ。……あおいは、何をさせられちゃったんだろう。
「……あいつも、クルミさんと一緒です」
「え……?」
「勇気が無いんです。ちゃんと話してくれたら、悪いことなんかじゃないって。……ううん。悪いことなんですけど、あいつは悪くなんかないって、ちゃんとわかるんです」
「……ちゃんと、話すか……」
「……はい。あいつも、嫌われたくなくて言えないんです。言いたくないんです。だから、……ちゃんと許してもらえたら。本当の意味であいつのこと、助けてあげられるんだと思うんです」
ここまであの子のことを、大事に。大切に思ってくれて……。すごく、胸が温かい。
「あの子を助けるためにそうすることが必要なら。ひなたくんがしていることは、決して間違いでも悪いことでもないわ」
「クルミさん……」
だって、こんなにもあの子のことを思ってる。……それが、十分伝わってくるんだもの。きっと、あの子もわかるはずよ。わからなかったら、わたしが絶対に教えてあげないと。
「……自分のせいだって、思ってるんです。あいつ」
「ええ。そうね」
そう思い込むよう、わたしはキツく当たってきたから。
「だから、あいつのこと許してあげてください。クルミさん」
「もちろん。だって、あの子が悪いことなんか一つもないもの」
彼のおかげで、もうたくさん勇気ができちゃったみたい。
「きっとあいつは、本当の話を聞いたら、……笑って。泣いて許してくれます」
「……そうね」
「でもね、やっぱりオレは、あいつにそんなことをしてしまったあなたたちを、……っいや。すみません」
「いいえひなたくん。それが普通よ」
デコピン一発で許すことなんてできないだろう。それだけあの子が大事なんだ。彼にとっても。
「いえ。だって、オレがもしあなたたちに手を出してしまったら、……あいつが絶対悲しむ」
「……ひなたくん……」
「だから、ちゃんとあいつと話してやってください。オレがして欲しいことは、ただそれだけです」
「……うん。勇気、いっぱい溜めておくわ。会えた時、必ずあの子に話すために」
ここまで来てくれた、彼のお願いだもの。
……ううん。ここまで来てくれた、彼のお礼に。わたしはちゃんと、あの子と話しましょう。



