✴
ふっと、クルミ小さく笑った。
「どうしたんですか? キザだと思ったんですか? 違いますよ。オレは悪魔でやってきてるんで」
「……ふふ。違うわ? あなたがそばにいてくれてたら、あおいもきっと幸せなんだろうなって思っただけ」
「……そうだと、いいですけど」
「ひなたくん……?」
クルミは、ヒナタの顔に影が差したことを気にして声を掛けるが。
「ま、オレがなんとかしますから。クルミさんは、元気にここで待っていてくださいね」
「え? ……う、うん。わかったわ」
気のせいだったのだろうか。彼の顔は、普通の表情に戻っていた。
「クルミさん覚えてますか。オレが『許してあげます』って言ったこと」
「……た、確かスーパーデコピンをしてきた時に……」
「……ま、気休めにもならないかもしれないんですけどね」
彼は、無い月でも見えるのか。真っ暗な夜空を、星でいっぱいの空を見上げていた。
「あなたが、少しでも楽になれたらいいなって。そう思ったんです」
「……え?」
「オレにも、いろいろしんどいことがあったんです。絶対に許してもらえないって。知られてしまったが最後、オレは嫌われてしまうって。そう思ってたことがあって」
夜空を見上げている彼の横顔が、どこか大人っぽく見えた。
「それでもね? 嫌われたくなかった一番大事だった奴に、『オレのせいじゃないんだ』って、『今までつらかったね』って。悪いことしてたのに、そいつに許してもらえただけで、気が楽になったんです」
「ひなたくん……」
きっと、彼もまた、一歩大人へと近づいたからこそ、そう見えたんだろう。
「だからね? クルミさん。オレはデコピンで許してあげたんです」
「え……?」
「『許してあげる』って、そう言ったのはあいつのことを捨てたこと。確かにそれも間違いじゃありません」
目線を下げ、今は地面を見つめていた。
「あなたのことちゃんと知るまでは、……最低だって。殴っても殴っても、気は済まなかったかもしれない」
どこか申し訳なさそうな声と表情に、緩く首を振る。
「……いえ。最低なのはオレなんです。勝手にそうやって、あなたのこと思ってしまって。すみません」
「……ううん、ひなたくん。やってしまったことに変わりないの。たとえ、……どんな事情があったにせよ」
そう言ったら、「それです」と。彼がそう漏らした。
「……どういうこと?」
「あなたは自分のこと、許してないでしょう? 今そう言いました」
……確かに、酷いことしたんだもの。許してもらえるはずなんてないわ。
「先にデコピンしちゃいましたけど、あなたはやさしい人です。本当に」
そう言われて、また彼のことを思い出す。あの頃の記憶が、蘇ってくる。
「そう思っていたから、オレはもう許そうと思ってたんです。あいつを捨ててしまったこと。……何かわけがあったんだろうなって、そう思ったから」
「……ひなたくん」
「でもデコピンをしたのは、あなたが誰にも相談しなかったからだ」
「え?」
「父親に。あいつに。もし話してたら、もっと違う解決方法が見つかったかも知れない。……違いますか?」
「……そうかもしれないけど、もうこれ以上迷惑を、心配を掛けたくなかったの」
「信じてなかったんですか? 旦那さんのこと。あいつのこと」
「そんなことないわ。……信じて。いたの。愛していたの」
「そういうのも全部、分け合うものじゃないです?」
「え……?」
「気持ちはわからないことはないです。でも、つらいのも苦しいのも。もちろん楽しいとか嬉しいとかも。……そういうのを分け合えるか。掛け合えるかが、オレは大切なんじゃないかなと思いますよ」
「……心配も?」
「はい」
「迷惑も……?」
「もちろん、大事な人にこそ、そういうのはしたくないって思ってしまうのは当たり前のことなんだと思います。でも、だからこそ話さないと。一人でじゃなくて、みんなでちゃんとお互いを支え合うことが必要なんじゃないかなって。……オレはそう思いますよ」
「……支え合う、か……」
ふっと、クルミ小さく笑った。
「どうしたんですか? キザだと思ったんですか? 違いますよ。オレは悪魔でやってきてるんで」
「……ふふ。違うわ? あなたがそばにいてくれてたら、あおいもきっと幸せなんだろうなって思っただけ」
「……そうだと、いいですけど」
「ひなたくん……?」
クルミは、ヒナタの顔に影が差したことを気にして声を掛けるが。
「ま、オレがなんとかしますから。クルミさんは、元気にここで待っていてくださいね」
「え? ……う、うん。わかったわ」
気のせいだったのだろうか。彼の顔は、普通の表情に戻っていた。
「クルミさん覚えてますか。オレが『許してあげます』って言ったこと」
「……た、確かスーパーデコピンをしてきた時に……」
「……ま、気休めにもならないかもしれないんですけどね」
彼は、無い月でも見えるのか。真っ暗な夜空を、星でいっぱいの空を見上げていた。
「あなたが、少しでも楽になれたらいいなって。そう思ったんです」
「……え?」
「オレにも、いろいろしんどいことがあったんです。絶対に許してもらえないって。知られてしまったが最後、オレは嫌われてしまうって。そう思ってたことがあって」
夜空を見上げている彼の横顔が、どこか大人っぽく見えた。
「それでもね? 嫌われたくなかった一番大事だった奴に、『オレのせいじゃないんだ』って、『今までつらかったね』って。悪いことしてたのに、そいつに許してもらえただけで、気が楽になったんです」
「ひなたくん……」
きっと、彼もまた、一歩大人へと近づいたからこそ、そう見えたんだろう。
「だからね? クルミさん。オレはデコピンで許してあげたんです」
「え……?」
「『許してあげる』って、そう言ったのはあいつのことを捨てたこと。確かにそれも間違いじゃありません」
目線を下げ、今は地面を見つめていた。
「あなたのことちゃんと知るまでは、……最低だって。殴っても殴っても、気は済まなかったかもしれない」
どこか申し訳なさそうな声と表情に、緩く首を振る。
「……いえ。最低なのはオレなんです。勝手にそうやって、あなたのこと思ってしまって。すみません」
「……ううん、ひなたくん。やってしまったことに変わりないの。たとえ、……どんな事情があったにせよ」
そう言ったら、「それです」と。彼がそう漏らした。
「……どういうこと?」
「あなたは自分のこと、許してないでしょう? 今そう言いました」
……確かに、酷いことしたんだもの。許してもらえるはずなんてないわ。
「先にデコピンしちゃいましたけど、あなたはやさしい人です。本当に」
そう言われて、また彼のことを思い出す。あの頃の記憶が、蘇ってくる。
「そう思っていたから、オレはもう許そうと思ってたんです。あいつを捨ててしまったこと。……何かわけがあったんだろうなって、そう思ったから」
「……ひなたくん」
「でもデコピンをしたのは、あなたが誰にも相談しなかったからだ」
「え?」
「父親に。あいつに。もし話してたら、もっと違う解決方法が見つかったかも知れない。……違いますか?」
「……そうかもしれないけど、もうこれ以上迷惑を、心配を掛けたくなかったの」
「信じてなかったんですか? 旦那さんのこと。あいつのこと」
「そんなことないわ。……信じて。いたの。愛していたの」
「そういうのも全部、分け合うものじゃないです?」
「え……?」
「気持ちはわからないことはないです。でも、つらいのも苦しいのも。もちろん楽しいとか嬉しいとかも。……そういうのを分け合えるか。掛け合えるかが、オレは大切なんじゃないかなと思いますよ」
「……心配も?」
「はい」
「迷惑も……?」
「もちろん、大事な人にこそ、そういうのはしたくないって思ってしまうのは当たり前のことなんだと思います。でも、だからこそ話さないと。一人でじゃなくて、みんなでちゃんとお互いを支え合うことが必要なんじゃないかなって。……オレはそう思いますよ」
「……支え合う、か……」



