すべてはあの花のために➓


「だからね。……っ。あおいが生きてるって知って。今。……涙が出そうで……」

「いや、出てます出てます。ついでに鼻水出てるんで、これ使ってください」

「あ゛り゛がと゛お゛……。チ――ンッ!!」

「(あ。オレのハンカチ……)」


 今度からはティッシュも持っておこ。


「会いたいなら、会いに行きましょうよクルミさん」

「……でも。わたしはここから出られなくて」

「戸は開けてくれたのに?」

「……。わたしが出て行っちゃったら。次の子が。つらくなっちゃうから」

「クルミさん……」


 本当に、やさしすぎる。なんでこうも、オレの周りの人たちはやさしい人ばかりなんだろうか。一人ぐらい傲慢な人がいたとしたら、また何か変わったかも知れないのに。
 ま、それは何度も思うけど、どうもできないことだ。……でも。


「オレ、決めたことがあるんです」


 オレの予想通りなら、オレのまわりの全ての人がやさしすぎるはずだから。……ほんの少し。目の前の彼女のために、言葉を借りることにしよう。


「あなたがこの戸を開けてくれたら、オレの予想はきっと当たってる」


 だって、本当に捨てたのなら、あいつのことなんかどうでもいいはずだから。


「あなたはオレの予想通り、この戸を自分で開けてくれました」


 きっと今でもあいつのことを思ってくれていると、そう思ったから。


「クルミさん。オレはね? 昔から決めてたんです」


 ……そう。それは、泣いてるあいつを見つけたその日から。


「絶対にオレはあいつを助けてあげようって。絶対に助けるんだって」


 そう、……そして。あいつを助けるために、しなければならないことが見えたんだ。


「クルミさん。待っていてください」


 必ずだ。それはもう、まるっと全部。


「オレは、全ての人たちを助けて見せますよ」


 たくさんの人が。あいつを中心にたくさん傷ついて。たくさん泣いて、ぼろぼろになってきた。
 ……でも、それももう、終わりにしよう。


「だからクルミさんも絶対に助けます」


 ここからだけじゃない。彼にも、あいつにも、……必ず会わせてあげるんだ。


「確かに、月の下で咲く花も綺麗かも知れません」


 それでも、今のあなたに。そしてあいつに必要なのは、月じゃなくて太陽だ。


「確かに月も綺麗です。オレは、嫌いじゃないんですよ」


 どうやったって嫌いになんてなれないよ。だってハルナが産まれたのは、すごく綺麗な月の下だったから。


「それでもきっとあなたは、太陽のそばにいた方が、もっと綺麗に咲けるとオレは思いますよ」

「……ひなた、くん……」


 きっと、彼にも何かある。それを、心の底でクルミさんも思ってる。


「だから、……もう少しだけ待っていてください。『また』必ず迎えが来ますからね」

「……。うん。……ありがとう……」


 俯いて、また綺麗な涙を流し始めた彼女の頭に、こつんと頭を寄せる。


「(すみません。オレには、あなたの涙を拭ってあげることはできない)」


 その役目は、もうだいぶ前からたった一人しかいないんだから。


「……ひなた。くん」

「なんですか?」

「そんな台詞言ってて。……恥ずかしくない……?」

「言い慣れました」

「大変なんだねっ……」

「え。……そんなところで判断するんですか」


 まあ、確かに大変っちゃ大変だ。三巻に渉って裏側の話をするなんて誰が思った? 読者様ビックリでしょ。