すべてはあの花のために➓


 スパン――ッと。戸を開けた。だってもう。何を示唆しているのかわかってしまったから。


「……おひ、さま……?」


 今は夜だ。太陽なんて出ていない。
 それに今日は新月。辺りは真っ暗で、何も見えないはずなのに……。


「ははっ。……あなたで二人目ですよ。オレなんかのことを、お日様だなんて言ってくれるのは」


 少しだけ離れたところに立っていたのは、オレンジ色の髪がとてもよく似合っていた少年だった。


「……ね? 言ったでしょ。開けてくれるって」

「……だって。その話は……」


 自分には、全然無関係だと思ってた。でも、全然無関係なんかじゃない。寧ろ当事者だ。


「言ったでしょ? オレは、あいつを助けたくてここまで来たんです」


 そう言ってくる彼の表情は、何と表したらいいかわからない。喜び? 悲しみ? どちらとも取れるような顔をしている彼に、似てなんかいないのに彼を重ねてしまう。


「オレが助けたいのは、お日様を無くしてしまった人なんです」

「お日様……」


 言い得て妙だ。確かに、名字に『お日様』がいるんだから。


「今は道明寺と名前を変え、そこの家に囚われています。ああ、結婚したとかじゃなくて、引き取られた先がそういう名前だったんですけど」

「……どうみょうじ……?」


 月と太陽がいる、立派な名前なのに。そこに、あの子は嫌なことをさせられて。囚われて……。枯らされそうになっているというの?

 目の前の彼が、ゆっくりとわたしの方へ。やる気なさそうにポケットに手を突っ込みながら、振り向いてきた。


「どうか、お願いです。オレはあいつを助けたい。……天使を悪魔なんかにさせたくない。あなたの娘さんを。……あおいを、助けたいんです」

「……! ……あなた、は……?」


 そう言うと、彼は小さく笑った。


「オレは、九条日向と言います。初めまして。あおいの本当のお母さん。望月 来美(もちづき くるみ)さん」


 それがまた、彼と重なって見えたのだった。