「……もう。あんたは罪を背負わなくていいんだって」


 スマホはあのまま。キサに視線だけ向けて、後は頼むと生徒会室を飛び出した。


「……泣いて。くれなかった……」


 最後まで。オレが部屋を出る直前まで、あいつの涙は見られなかった。


「違うんだよ。これは。ちゃんと理由があるんだって……」


 だからどうか、間違わないで。あんたの大事な友達のこと。信じて。

 同じ階の突き当たりで、小さく蹲っていた。


「……泣かせてやれなかった。まだあいつは、つらいままだ……」


 あの仮面を、……なんとかしないと。


「え。日向? どうしたのよ」


 そう思ってたら、兄貴に見つかったし。


「どうしたの日向。お腹痛い?」


 んなわけないでしょ。めっちゃ悔しいんだって。
 ……失敗した。今までこんなことなかったのに。


「でも、怒らなくてもよかったって思ってるんじゃないの?」

「……だって。あいつが、悪いから」


 なんで。泣いてくれないの。
 ……頑固。頑固親父並みに頑固。


「話せないって、話したくないって言いながら、言いたいのに言えなくて苦しいって。あいつ、そう言ってる」


 だからその仮面、壊してやるって言ってるのにっ。


「最近のあいつ、気持ち悪い笑顔ばっかり」


 たとえオレらの前では外しても。つらいのは。苦しいのは。変わらない。


「……でもダメだった。もうオレらの前じゃ、泣いてくれないのかもしれない。オレらにつらいんだって。苦しいんだって弱音、吐いてくれない。……吐けないのかもしれない」


 失敗したのなんか、初めてだ。
 言うつもりなんてないのに。つい弱音が。ぽろぽろ出てくる。


「よくやるわね、アンタも」

「別に、後悔してないし」


 そう。後悔はしていない。
 これで家の信用は得られるだろうし、仮面の破壊まではいかなかったけど、結構傷ついたんじゃないかと思うから。


「じゃあなんでこんなとこで小さくなってるの?」

「次の作戦を練っている」


 だって、プライドが許せない。
 失敗させたんだ。それ相当の罰をあげるんだからっ。


「や、やめてあげなさいよ。めちゃくちゃ傷ついてたじゃない」

「でもオレの前で泣いてくれない」


 泣かすことしかできないオレの前で、涙を見せてくれないんだ。


「日向……」

「信じて欲しいんだ。大丈夫だって。心許して欲しいんだ」


 信じて欲しい。
 今泣いて、つらいって。苦しいって。そう、あいつの言葉で。涙で。……言って欲しいんだ。