すべてはあの花のために➓


「……あれから、何年の月日が流れてしまったのかしら」


 どうやって戻ってきたのかは、よく覚えていない。でもヤクザたちも、あれだけの金をわたしが落としていったから、彼やあおいのことを望月に話すことはなかった。


「わたしも、いつまでここを守っていてあげられるか……」


 わたしが帰ってきてからは、特に咎められることはなく。それはもう大層喜ばれた。そしてわたしは、またこの社に監禁された。

 それから何年か経って、『次の子』が生まれた。
 わたしの子どもじゃない。だって、あの子以外にわたしはいらない。あの人の子ども以外、わたしはいらない。

 家は、わたしが相手をもらうことを拒否することを、初めは嫌がったけれど。もし、無理矢理にでもそうするんだったら、わたしはまた、ここから出ていくと。そう言ったら大人しくいうことを聞いた。
 でも、神の子となる柱は、わたしの家族以外にもいる。そこに、新たに子どもが産まれてしまった。神の子だったわたしは、この子も無事に神の子となれるよう、そういう儀式を行わされた。

 他人の子どもなんて抱きかかえたって、何の感情も浮かんでこないと、……そう思ってた。でも、もしかしたらこの子は、わたしのように苦しんでしまうかもしれない。こんな馬鹿な家に、振り回されて、閉じ込められて、狭い世界を生きていくのかもしれない。

 そう思ったら、それは阻止してあげないといけないと思った。
 わたしが生きている限り。憑きがある限り。あの子を守ってあげられなかった代わりに。今目の前のこの子を、守ってあげないとと。……そう思ったら不思議と、その子が愛おしく思えてきた。

 子どもに罪はないもの。できる限り。わたしができる範囲で守ってあげよう。


「……わたしは。こんなにも長い間、生きてしまった」


 あの海から小さなこどもの訃報はわたしの元へは来なかった。流石に、届かなかっただけかもしれないけれど。偽物の神様は、あおいのことを守ってくれただろうか。
 きっと、あの子なら大丈夫だって信じてる。大丈夫だって思っておかないと。今にも心が折れそうだった。


「……彼は。幸せな日々を、過ごしているといいな」


 わたしに会ってしまったせいで、彼をたくさんたくさん巻き込んでしまった。
 ここへ戻ってきてから、百何十回、月のない日が来ただろうか。……今でも思ってしまう。彼がひょっこり現れるんじゃないかって。


「……そんなはず、無いのに」


 あれから歳を取った。もしあおいが生きていたら、わたしがあおいを捨てた時と同じ歳くらいになっているんだろうな。


「……今日も、新月ね」


 この日は、やっぱり眠ることなんてできなかった。どうしても彼に。会いたくなってしまうから。


「……ただ。一度だけでいいの」


 もう一度。会いたい。ううん。会わなくてもいい。
 ただ彼の、あの子の元気な姿を見られれば。わたしはもう、……一生幸せでいられるんだから。