中にいたのは、望月に雇われたヤクザたちだった。ご丁寧に名刺まで。
 素性を隠しているのか、本当にこことの繋がりがあるのか知らないが、その名刺にヤクザということは書かれておらず、ここのホストで働いていることになっていた。どうやら望月は、馬鹿みたいに金を叩いてわたしのことを捜させていたらしい。楽しげにこいつらがそう話していた。
 こいつらは、ただ金が欲しいだけだから大人しく望月に帰るようわたしに言ってきた。初めはもちろん断った。……初めは。

 言い分はこうだ。わたしが素直に望月へと帰れば、父親や子どもには手を出さないと。まだ望月には、わたしが見つかったことも、旦那や子どもがいることも話してはいないみたいだった。
 だから、わたしはこう言った。……わかったと。望月には帰ると。だから、旦那にも子どもにも手は出さないでと。望月には、絶対に話さないでと。

 ……さぞ楽しいんだろう。奴らの汚らしい笑い声が、開店前の店内に響き渡る。でも、奴らがそんな簡単にわたしの条件をのんでくれるわけがなかった。
 やつらに必要なのは、金だ。ここで定期的に落としていけば、話は黙っておいてやろうと言われた。そんなの、こいつらが守ってくれるとは到底思えない。


 それでもわたしは、彼をあおいを守るために、そうしたんだ。……そうするしか、他に方法はなかったから。


「……。はあー……」


 今日も随分飲まされてしまった。金を使ってるんだから飲めと、まだ未成年のわたしにキツい酒を突っ込んでくる。


「あの人は。……素直に別れたいって言っても。聞いてくれないだろうし」


 そんなことを言い出したらきっと、望月に何かされているとバレてしまう。
 ……何も言わずに出ていこうかと思った。でも、絶対に彼は望月に来てしまうだろう。危険も顧みず。バレてはダメなんだ。彼のことも。あおいのことも。


「……。一体。どうしたら……」


 ふらふらと、倒れそうになりながらもこの足は家路へと向かっている。今日は遅くまで飲まされてしまった。ここ最近は、彼よりも遅く帰ってしまうことがあった。


「……。このままじゃ。ダメだわ……」


 こんなやり方なんかしたくない。だってわたしは。……彼を愛しているんだもの。彼だって。わたしを愛してくれてるんだって。……そう思っているんだもの。


「……。ごめんなさい、あなた。ごめんなさい。あおい……」


 それでも、こんな方法を取ってしまうわたしを。許さなくていい。恨んでくれていい。……こんな最低なわたしのことを。どうか忘れて。二人で幸せに生きていって欲しい。


「……。ごめんっ。あおば……。っ……」


 知っていた。初めから。だってわたしは、見えているから。
 彼女の気持ちを知っていても尚、何も言わなかったのは、彼女も必死で隠していたから。彼女が。……幸せそうに笑っている彼を見て。嬉しそうに微笑んでいたから。


「ごめん。……ごめん、なさい……」


 きっと、あおいにバレるのもすぐだろう。それが合図にしよう。何もかもの…………終わりの。