「いや、くるちゃん。本当に何もないよ? 俺がくるちゃん一筋なの知ってるでしょ?」

「今聞いてるのはそういうことじゃなくって!」

「まあまあ~」

「え。……ちょ。ちょっと……!」


 彼はそう言いながらわたしの背中を押してリビングへと向かわせた。
 なんだか上手く丸め込まれたけど、今度あおばに会ったらお祝いしてあげないと。それからプレゼントも買わなくっちゃ!!

 ……でも、あおばはあれ以来、家に来ることはなかった。


「(……あおば。どうしちゃったのかしら……)」


 電話をしても、いつも予定が詰まってるからと、家には来られないと断られてしまった。だから、プレゼントは贈って、電話で『誕生日おめでとう』とは伝えたんだけど……。


「(……あの人も帰りが遅いし……)」


 二人して、何かしてるんだろうと思った。あおいも言ってたし。
 わたしに内緒であおばと仲良くするなんて! ……寂しいじゃない。


「おかあしゃん! おてがみ~!」

「あら? ありがとうあおい」


 郵便物を取りに行ってくれたあおいは、それをわたしに渡したあと、きいーん! と彼の仕事部屋に行ってしまった。
 知らないことがいっぱいあるからだろう。勉強するのが楽しいみたいだ。


「……手紙って言っても、携帯の明細書とか、そんな感じでしょうね」


 だって、わたしも彼も隠れて生活している。まあ、端から見たら全然そんなことはないんだけど。


「……え」


 でも、確かにこれは『わたし宛』だ。


「……望月、って。何で……」


 しかもこの手紙、切手も、郵便局の印鑑も。ここの住所も。送り主だって。何も……ない。
 震える手をなんとか動かして、手紙の封を開ける。そこには、一枚のメモと、この間行った、向日葵畑にいる『わたしたち』の写真が数枚入っていた。


「――……っ」


 嫌な予感が、的中してしまっていた。しかも、この場所までもうバレている。
 ……だとしたら、あおいのことが望月にバレるのも時間の問題だ。


「……なんとかして。守らないと……」


 あおいを。彼を。わたしが守らないと。

 でも、心配なんて掛けられない。
 急いで化粧を施し、彼が絶対似合うからと言っていたけど全然着たことなんてなかったドレスを身に纏い、そのメモに書かれていた場所まで向かうことにした。


「おかあしゃん? おでかけ……?」

「そうなの。ちょっと行かなくちゃいけなくなって」


 不安そうな顔をしているあおいに、視線を合わせるようにしゃがみ込み、頭を撫でる。


「お父さんが帰ってくるまでには帰るからね? いい子で待ってるのよ?」

「うんっ! いいこだからまてるよ!」


 やっぱりなんだかちょっと面白いこの子を見てたら、彼を思い出してしまう。
 そんなあおいを引き寄せて頭にキスを落としてから、……大急ぎで指定されたホストクラブまで駆けて行った。

 そこはまだ、開店前。準備中と書かれていたけれど、問答無用でわたしはそこの扉を開けた。