「さてと。今日の夕ご飯は何にしようかしら」
料理を教えてもらってから、いつもするのが楽しみだった。もっといろんなことを覚えたいと思って、料理の本も買った。難しそうな料理を作って彼を驚かせるのも、わたしの一つの楽しみだ。
「うわああああん!!」
「ええ!? い、いきなりどうしたの……!?」
慌てて葵に駆け寄って抱きかかえたら、さっきまでいたキッチンのつり下げ電球が大きな音を立てて落ちた。……そこは、本当についさっきまでわたしがいたところだった。
「……あおい。助けてくれたの……?」
「きゃっ」
さっきの鳴き声はどこへやら。今ではとっても上機嫌だ。まあ滅多に泣かないし、子育てするにはとっても楽なんだけれど。
「(……本当に、まぐれかしら……)」
傘のことといい、彼の仕事のことといい、……今のことといい。どうしても、望月が頭をちらつく。わたしの血が、強すぎたんだろうか。
「(大丈夫なはずよ。彼だって隠してくれているんだもの)」
でも、それでももし、これがまぐれではないのなら……。
「(……血は混じっている。けれど、これは異常だわ)」
よくでき過ぎている。それも、ある種の理想通り。だから、馬鹿な望月は、いつかこの子に縋り付いてくるかもしれない。それだけは絶対にさせないと、そう心に決めた。
「向日葵畑に行こー!」
「わーい! ひまわりー!!」
「え? い、いきなりどうしたの……?」
彼がいきなりそんなことを言って、あおいもノリノリだ。
どうやら、血は濃いかもしれないが、彼のもしっかり受け継いでいるみたいで……。というか、彼そっくりだ。見た目はわたしにだけど、中身は彼だろう、うん。
「くるちゃん! お休みもらったからさ! みんなで見に行こうよ!」
「ひまわりー!! わーい!!」
「え……? な、何でまたいきなり……?」
お休みくらいゆっくりしたらいいのに。
でもどうやら、お互いを隠しているとは言え生活を窮屈に思って欲しくないらしく、彼なりの配慮だったみたいだ。
「……たまにはさ? 家族水入らずで旅行なんてどう? 俺は、あおいも大きくなったし、こいつに本物の自分の花を見せてやりたいんだー」
「ひまわりー! ひまわりー!!」
「……でも……」
「大丈夫だって! 何かあったら、俺が何が何でも守ってあげるからさ」
「わたしの方が強いのに?」
「おかあしゃんつよーい!! ひまわりー!!」
「うぐ。……でも? ベッドの上は俺が強いよ?」
「それって、弱いって言ってるようなものでしょ……」
「おとうしゃんよわーい!! ひまわりー!!」
「うっ。……あおいー。くるちゃんがいじめるよー……」
「あ、……こら! あおいを盾に取らないで!」
「わーい! しゅらばー!! ひまわりー!!」
「「(い、いや。修羅場ではない……)」」
それからあおいはすくすく元気に育ち、彼のようにちょっとおバカちゃんな時もあるけれど。彼の仕事場に入り浸って勉強してしまうくらいには、賢くなってしまっていた。
「……くるちゃん。行こう? 絶対大丈夫だから」
「……そうね」
彼も、きっと気づいてる。わたしが考えてることに。だからその気分転換になるようにと、そう思って休みを取ってくれたんだろう。本当に、……最高の旦那様だ。
「どこがいいかなーっと思って。くるちゃん、どこかいいところ知らない?」
「え。……わたしに聞くの?」
あそこから出たことがないわたしに聞くとか。……正気?
「……あ」
「ん?」
「人から聞いたんだけど、地元近くにすごく綺麗な向日葵の花畑があるって。……聞いたこと、あって」
でも、地元の近くだ。そんな危険なところ、わざわざ出向く必要なんかない。



