「……。いっ……」

「……痛かった?」


 それから、彼のことも聞いた。聞いた時はすごい驚いたけれど、本音を言えば、そんなのどうだってよかった。


「……う、うん。へーき……」

「……ごめん。もうちょっと、だから」


 彼と、いられるだけでよかった。
 彼と見つめ合うだけで。彼がわたしの名を呼ぶだけで。わたしに触れるだけで。彼と。深く繋がれるだけで……。わたしは。幸せだ。


「……ううん。だい、じょうぶ……」

「無理しないで」


 あれから大変だったけれど。彼が、本当にいろいろと頑張ってくれたおかげで、二人だけの時間がたくさん作ることができた。


「ううん。……本当に、大丈夫。……ごめんね。つらい、よね」

「ばーか。……俺のことは心配しなくていいの」


 それから、わたしが望月に追われることがないように、必死にわたしのことも隠してくれた。


「はあ。……んっ。力、抜ける……?」

「……。抜いてる。つもり……」


 わたしを匿うようになって、彼には迷惑を掛けているのはわかってるけれど、『俺が好きでやってるから』……って。いつもやさしく笑ってくれた。


「全然抜けてないよー。……じゃあ、俺が骨抜きにしてあげよう」

「え? ちょっと意味が違っ、……あっ……」


 体を這う指に。敏感に反応してしまって。力が入らなくなる。


「……そのまま。抜いてて。痛くしたくない」

「……あ。……っ。……ん……」


 動き出す彼の体に。ただ身を任せているだけで幸せで溢れてた。

 ――……そして。彼が18になり、わたしが16になってすぐに、わたしは望月を消してもらった。彼も、自分の存在を消すために、卒業と同時に誰も知らないところへ、わたしたちは移り住んだ。


「名前はね、葵がいいと思うの」


 お日様みたいな、いつも温かくって、にこにこして。向日葵みたいに真っ直ぐ、大きく育って欲しい。

 照りつける太陽の下。ある暑い暑い夏の日に、大好きな彼との愛が生まれた。
 名前は、葵。花言葉は、……信じる心。

 でもね? 朝に咲く大きな向日葵でもあるこの子には、わたしの彼みたいに、大好きな人を見つけて欲しいから。そして、これからの人生が、光り輝いていますように。花言葉は『私はあなただけを見つめる』『光輝』。

 ただ太陽に。真っ直ぐに伸びて育って欲しい。たくさんたくさん、幸せになって欲しい。そんな意味を込めてつけた。彼との子じゃないとつけられない、大切な名前。