すべてはあの花のために➓


「俺と! 駆け落ちしませんか!」

「………………え」


 ええぇー……!?!?!?

 頭でちゃんと理解するのに、少し時間がかかった。


「あはっ! 超楽しい!」

「た、楽しいって言えるような問題じゃなくって……!!」


 でも彼といたら、きっと楽しいんだろうって思う自分もいたりして。
 この掴んでくれてる。引っ張ってくれてる手を。……払おうなんて思わなくて。


「…………!」


 彼と、もっと触れ合いたくて。自分から、しっかり手を繋いだ。そしたら、彼は驚いてまたこっちを向いてくる。


「……行く」


 今度は、彼に引っ張られるんじゃなく。彼と一緒に。


「行きたい! 連れて行って欲しい……!」


 だって、彼と一緒にいられるだけで。わたしは今、こんなにも幸せで溢れてる!


「……名前」

「え?」

「名前。教えて? すっ飛ばしてたから、聞くの忘れてた」

「……ははっ」


 嬉しそうに、楽しそうに笑う彼を見て。わたしも、今までこんなに笑ったことなんてなかったのに、それが自然とできてしまった。
 信号で止まった時に、そっと彼にだけ教えてあげる。そしたら彼も、そっとわたしにだけ教えてくれた。

 どこに向かっているのかはわからない。でも、そこに着くまで、二人で結局大きな声で名前を呼び合った。


 これが、彼とわたしの、ほんの少しの幸せの時間への第一歩。……そして。
 大きな過ちへの、第一歩。