すべてはあの花のために➓


「……なんで。さよなら……?」


 腕は少し緩んだけど、それでも離してはくれなかった。彼女の腕は、どうして震えているんだろう。


「……わたしのこと。きらい……?」

「……!! それは違うよ!!」


 好きすぎて、どうにかなっちゃいそうなんだよ。いつもいつも。会えない時は。


「……会えない時。わたしがどれだけあなたのこと。考えてるかわかる……?」

「……え」

「あなたのやさしい声聞くだけで。……嬉しいか。わかる……?」

「え」

「楽しい話。……どれだけ楽しみにしてたか。あなたにわかる……?」

「…………っ」


 ……待って。待って待って。彼女が紡ぐ言葉は……。
 というか、紡ぐ度に心臓がうるさい。体だって。……熱い。


「……知らないでしょ。わたしがあなたにどれだけ会いたかったか。……見たいって思ってたか……!」


 そんなの言われたら。……止まんないよ。


「……。一緒にいたい」

「……!!」


 止めらんないよ。


「もう一回。……わたしのこと、好きになってもらいたいの……!」

「……。そんなの……」


 ……あーだめだ。見たい。今どんな顔してるのか。
 小さく震えてる手が。……すごく、愛おしい。


「こんなにもあなたでいっぱいなのに……! さよならなんて許さな――……んっ!」


 もう止めらんない。
 好き。すっごく好きだ。大好きだ。


 ❀ ❀ ❀


 最後まで言葉を紡がせてくれなかった。最後は目の前の彼に、飲み込まれてしまった。
 驚きで、さっきまで止まらなかった涙がぴたりと止まってしまった。彼は魔法使いなんだろうか。いいや、話を聞く限りただのゲーマーでアニメオタクだ。

 さっきまで彼の首を絞めていた手は、今は彼の服を掴むので精一杯。勢いよく解かれたかと思ったら、思い切り頭を掴まれて、そのままかさつく唇でわたしの言葉を塞いできた。

 ……でも、それを解こうなんて思わないんだ。だって、触れてるところが今……。すごく、熱い。


 わたしの息でさえも、彼は飲み込んでしまうかのように。深く深く……。口づけてくる。苦しい。すごく苦しい。
 それでも、やめて欲しくなんてなかった。離れて欲しくなかった。


 わたしが逃げる気がないのがわかったのか、いつの間にか掴んでいた片手は腰へ。もう片方は頭の後ろへ、そっと添えられていた。

 でも、やっぱりわたしにはそんな余裕はなくて。……ただただ、その口づけに身を任せ、必死に応えるので精一杯。


 ……どれくらい経っただろう。もしかしたら一瞬かも。いや、でもすごく長い間だったのかも。
 ゆっくりと離れたわたしたちの頬は、……苦しかったのだろうか。ううん。きっと、違う理由で赤く染まっていた。