「ていうか一年も会いに行ってるのに、向こうの名前も知らなけりゃ家のことも知らねえ。……顔だって、初めてて会った時以来見てねえんだろ? 忘れただろ流石に」

「……ううん。忘れたくても、忘れられないんだ」

「また始まったか惚気が」


 そう。あれは、こいつらに置いていかれて迷子になった時の話だ。



『カエ~……。ミク~……』


 一体どこにいるんだろうと、林の中を捜し歩いていた。


『あっつ……。もう、まだ日陰だからいいものの、炎天下に晒されてたら俺、死因が迷子になっちゃうよ。そんなの嫌だよ~』


 電波は通らないし、どうしたものかと思ってたら、やっと開けたところに出たんだ。よかったよかったと思って、林を脱出しようと思ったんだけど……。


『――――――』


 吹き荒ぶ一陣の風。それが通り過ぎて顔を上げるとそこには、青々と茂った木の向こうの青い空を、愁いた表情で見上げている少女。


『………………』


 綺麗だった。それはもう、……一枚の絵にしたかのように。
 だから、なかなか声を掛けられなくて……。心の中に、その絵をしっかり収めておいたんだ。

 頑張って声を掛けたら、驚いた彼女の表情にとくんと胸が鳴った。あ。……これは、本気でやばいと思った。
 もう、一目見た瞬間から。俺は、……恋に落ちたんだ。



「ロールキャベツくん頑張ったのにいぃ~……」

「いや、頑張ってなるもんか? そういうのって」

「しょうがない。転生の草食だから」

「意味がわからない~……」

「でもまあミクの、それはそれは偉い教えを、お前は頑張って忠実に再現したんだろ?」

「私は悪くない。悪いのはお前だ」

「ううぅ~……」

「そのままでいい顔してんだから、普通にいつもみたいに猫被って話せばいいじゃねえかよ」

「……まあ、オタクよりはマシか」

「ダメ! 彼女には本当の俺を見て欲しいんだから!」

「じゃあ頑張れ」」

「うう~……。冷たい……」


 でもこのままもよくないから、ミクの作戦を遂行することにしよう。うむ。
 それから作戦を考えたっちゃ考えたんだけど……。


「いーやーだぁああー!!」

「なんだよ。せっかく考えてやったのに」

「失礼だ。そして最高の出来」

「なんで嫌われてることになってるの!? まだ嫌ってないよ!!」

「まだっていうってことは、未来にはその可能性があると」

「だって俺オタクだも~ん……」

「まあ、これは私たちが考えた一つの案だ。忠実に再現するのかどうかはお前次第」

「うっ……」