「あ、……朝日向くん。もしよかったら。今度の日曜日に……」
「誘ってもらえて嬉しいんだけど、その日は用事があるんだ。ごめんね?」
「あ。ううん。……それじゃあ、また。誘うから」
「そう? ありがとう」
こうやって、俺に近づいてくる奴らがあとを絶たない。俺を『俺』として見てくれてるのは、ここにはこいつらしかいない。
「お前も大変だな」
「もう慣れたよ」
「日曜日は何があるんだ?」
「新月~!」
「「そ、そう……」」
これで、……何回目だろう。会ったのが去年の夏で、今が秋…………え。
「秋ー……!?!?」
「うわっ」
「な、なんだ?! どうした!?」
「カエ! 半年どころじゃないじゃん! 一回り回ってるって!!」
「お? そうか?」
「馬鹿だ……」
「どうしよう。もう一年経ったじゃん……」
ずっと、このままなんだろうか。
生徒としても、彼女のことも、……自分の、ことも……。
「オーマイガー……」
「こいつの本性知ったら話しかけてくる奴なんか減ると思う人~」
「はい」
このまま俺は、彼女の名前も知らずに。時が経っていくのをただただ見ているだけなのか。
「それじゃあ作戦を変更しよう」
「え? み、ミク……?」
眼鏡をクイッ! と上げながら、自信満々な感じでそう言ってきた。
「題して【押してダメなら引いてみろ作戦】だ」
「「そのままじゃん」」
でも確かに、今までずっと俺が一方的に話してることが多かったかな? 彼女の方から自分のことを話してくれないから、俺も自分のことは話さなかった。彼女の方も、いろいろ事情があって言いにくいからだろうけど、俺だって、できることなら言いたくなんてない。
「……よし! その作戦で行こう!」
「マジかよ……」
「では作戦を練ろう」
それでミクとカエが、俺が今までどんなことを彼女と話してきたのかを聞いてきたから教えてあげた。
「……ま、マジで言ってんのか?」
「マジもマジマジ! 大マジさ~」
「うわ……」
「え?! ミク……! 何でグラサン掛けてるの!?」
「視線さえも合わせたくないからだ」
「えー……」
何さ。聞いてきたのはそっちじゃないか。
「おま、……漫画とかアニメの話ばっかじゃねえか!」
「え? ダメだった?」
「そうやって自分の評価を下げるくらいなら、彼女の名前くらい聞けばいいのに」
「だから! 俺もいろいろ考えてるんだって!」
だって、会話って言っても何を話したらいいかなんてわからない。彼女のことも聞けないし、俺のことだって話せない。学校のことも、……家のことだって。
「その子、よくもまあ飽きずに聞いてくれるな」
「まあ月一の逢瀬だからね!」
「それは、愛し合っている男女の場合に多く使うから不適切だ。お前がしているのはただのアニメと漫画の評論」
「え!? 嘘……!?」
「「馬鹿だな……」」
だったらもしかして、押してダメなら引いてみろ作戦する前に、彼女めっちゃ引いてるんじゃない……? 俺、ある意味押しすぎたんじゃない??
「彼女は別に、嫌がってるとかじゃねえんだろ?」
「え? うん! 楽しそうな声が聞こえるから、……嫌ってわけじゃないと。……思うんだけどな……」
「テンションの落差が激しすぎる」
「向こうは何も聞いてこないのかよ」
「……うん」
「どん底か」
「でもきっと、お前が来るのは楽しみなんだろうな」
「え……!?」
「持ち直した」
「だって、そんなクソみたいな話も楽しげに聞いてくれるんだろ? まあ姿が見えねえなら、録音かもしれねえけどな」
「え。クソ……? ろ、録音……」
「あ。また落ちた」
録音か。面倒くさかったら、そんなことされてるかもしれない……。
……いや! でも、なんか言ったら返ってくるし! 録音じゃない! そう思いたい……!!



