「はああー……」

「うるさい」

「おい。どうしたんだよそんなデカいため息」


 どうしただあ? そんなの見てわかれー。


「わかれと言う方がおかしい」

「……ミク、今俺の声漏れてた?」

「おうバッチリな。……なんだ。また例の子か?」

「あー。……カエ。なんとかして……」


 修学旅行で京都に行って以来、もうあの子のことで頭がいっぱいなんだ。


「ロールキャベツ男子がモテると言っただろう」

「ていうかそれ、どこ情報なのミク……」

「雑誌と、それからテレビだ」

「ミクはミクなりにお前のためを思って必死で調べてたんだぞ」

「ミクは俺よりも自分の心配しなよ……」

「私は仕事に生きると決めてるから必要ない」

「とか言う奴に限って、マジで好きになったら暴走したりしてな」

「俺は今すでに暴走してるよー……」


 あれから何度、彼女のところへ行っただろう。彼女が教えてくれないから、こっそり調べてみたりしたけど……。


「私は勧めない」

「ミク……」


 というのも、こいつが俺のためを思って調べてくれたんだけど。


「……ま、ちょっとどころかだいぶ変な家だからな」

「ああ言わないでー……」


 調べたと言っても噂だ。本当のところは何もわからない。


「噂が本当なら、相当頭がおかしい連中だ。彼女もその中に含まれている」

「でも彼女はいつも一人でいるみたいだったよ! それにめちゃくちゃやさしくていい子なの!」

「でもその一人が、家にとって一番大切な奴なんじゃないのか」

「でも! 大切ならあんなお粗末なところに置いておかないでしょ!?」


 こいつらとはぐれて正解だ。迷子になってよかった。じゃないと俺は、あの子に会うことができなかったんだから。


「月の神。月が嫌だろうからと新月に行くと決めて、もう何度目になる」

「うぐ……」

「行っても彼女が誰なのかもわからないまま、もう半年以上経ったか。名前くらい聞いて来いやヘタレ」

「ちがっ。……俺にもいろいろ考えがあるんだ!」

「そんな考えが立てられるなら、ちゃんと将来を考えるべきだと思うが」

「そ、れは……」


 うちの学校は商業科の学校で、高校を卒業して働きに出る奴らが大半だ。成績優秀のミクはどこか、結構大手の会社にもう内定もらってるみたいだし。
 カエはカエで、卒業と同時に付き合ってる彼女と籍も入れるらしい。しかもこいつも、なんだかんだで要領いいからめちゃくちゃデカい会社に引っ張られたみたいだ。


「けどお前、このままじゃダメだろ。どっちにしろ」

「……わかってる」


 俺にも、いろいろ事情がある。
 ここの学生としても。彼女のことも。……自分のことも。このままじゃダメなんだ。


「でも俺は、お前を応援してるからな。頑張れよ」

「カエ~……」

「決めたなら、最後まで成し遂げるべきだな。……私も、できるだけ手伝おう」

「ミクー……!!」


 本当、この学校に入ってよかった。こいつらは、俺とまともに話してくれる奴だから。