「……ここまで、かな」

「え……」


 今。いやな音が、聞こえた気がした。


「……ごめんね。こんなに嫌われてるなんて思わなかったんだ」

「(なんでそんな。いきなりネガティブなの)」


 いつもの彼ではないことは、離れていっている声で十分わかる。


「だって、今でさえ出てきてくれないのがその答えだろう?」

「……違うんです」

「ううん違わない。……ごめん。今まで気が付いてあげられなくて」

「っ、違うん、です」

「……もう。来ないから」

「……! ま、って。……っ。ちがうんです……!!」

「流石の俺も、ちょっとしんどいや。ずっと君は、変わらないから」

「違う。……っ、違うんです!!」


 変わったんだ。確かに。この胸の中の、大きすぎる想いは……。確かに、変わったんです!


「ごめんね。それじゃあ。……さようなら」

「――……!」


『また』じゃなかった。
 ……本当にもう。来てくれないの……?


「……え」


 声が、聞こえなくなった。ザクザクと。砂の上を歩く音さえ。遠退いていく。


「……い、いや……」


 いやだ。こんなの。……こんなの。いやだよ。
 あなたに、たくさん教えてもらったんだ。好きって気持ちが、どういうことなのか。


「……ずっと考えてた。あなたのこと……」


 一時だって、彼のことを忘れたことなんてなかった。初めて会った時、次はいつなんだろうって。ずっと、楽しみに待ってた。

 そんなあなたの声が聞きたいって。会えない日はずっと思って。たくさん。いろんな話が聞ける日は、もっと。もっとって。そう思って。見たいなって。会いたいなって。ずっと思って。こんな扉、ぶっ壊れてたらいいのにって。ぶっ壊してくれたらいいのにって。……思ってて。


「……また、触れて欲しかった。触れてみたかった」


 骨張った大きな手に。かわいい笑顔を作ってくれる頬に。
 ……初めて会った時から。目に焼き付いてて、頭から離れないんだ。彼の姿が。


「……一緒に、いたい」


 きっと、最初で最後だろう。こんなことを思うなんて。
 わたしにはもう。……彼しか見えない。


「……もう一回。わたしのこと、好きになってもらいたい」


 きっと気持ちが離れていってしまったんだ。だから急にあんなこと言い出したんだ。


「……許さない」


 こんなにも。あなたのことが好きなのに。……好きに。させたくせに。


「……好きって言わせてやる」


 もう知らない! もう。………………知らない!!


「……っ、絶対に許さない!!」


 こんなにもあなたのことを好きにさせた責任を! 取ってもらわなきゃ気が済まない!!

 こんなにも感情の赴くままに行動したことなんてないけれど、それでも今は気分がいい。
 スパーン!! っと思いっ切り戸を開けて(※壊れた)、彼が去って行ってしまった方へとわたしは走り出した。