「俺からは、絶対にこの扉は開けないよ」

「……。え?」


 ただ、真っ直ぐに。彼の真剣な声が、心に届く。


「だって、……開けちゃったら絶対、もう君のこと離せなくなる」


 そう言う彼の声は、真剣そのものだ。


「決めたこと、あるんだ。君がそこから出ることができたら、……君の名前を教えてもらおうって」

「……!」

「決めたこと、あるんだ。君がこの扉を自分から開けてくれたら、……俺の名前を呼んでもらおうって」

「…………。っ」

「決めたこと……。君が俺の名前を呼んでくれたら、……俺も君の名前を呼ぼうと思って」

「…………」

「決めたこと。……そこから出られて、君が自分のことを話してくれたら、抱き締めてあげようと思って」

「……!!」

「決めてるんだ。抱き締めたら、俺を好きって言うまで離さないって」

「……。あっ、……あの……」

「もうね、決めてるんだ。君が俺のこと好きって言ってくれたら、……死んじゃいそうになるくらいまでキスするって」

「……!!」


 手が。体が。勝手に動いて。戸に。震える指を。掛けていて……。


「……会ったその日から。俺は決めてたんだ」

「(……。あ、れ……)」


 彼が、立ち上がったような。少し高い位置から、声が聞こえる。


「ううん。これはね、ずっと前から俺が決めていたことなんだ」

「(……。まっ、て……)」


 どんどん、声が離れていってるような気がする。
 戸に体はもう、ピッタリくっついているのに。この戸を、横に滑らすような簡単なことが。……。っ、できない。


「好きになった人は、何がなんでも俺が守ってあげようって」

「……!! っ。……ま。……待って……」


 もう。ちょっとなんだ。……動け。動いて!


「好きになった人を、何がなんでも俺が幸せにしてあげようって」

「ま。……ま。……って……!!」


 動け。……っ。……動け、動け……!!


「もし好きになった人が困ってたら、絶対に俺が助けてあげようって」

「……! 待って……!!」


 お願い。……っ。動いて……!!
 止まって!! 行かないで……!!


「……君だって、聞かなかったじゃないか」

「……。え」


 声だけで、もう……。どんな顔をしてるのかがわかってしまう。


「君だって。……俺のこと何も聞かないじゃないか」

「……そ。れは……」

「君になら。……話すに決まってるじゃん」


 同じことを。わたしもずっと。思ってた。


「でも君は、ずっとそこから出てこない。……俺のこと、嫌いなんでしょ」

「……!! ち、違う……!!」

「そうじゃん。……確かに、声が聞きたいっていったけど、本当はちゃんと会って話したいに決まってるじゃん」

「……。そ。れは……」

「……迷惑なら、そう言ってよ」

「え……」

「ごめんね。……そこまで嫌がられてるなんて。思わなくて」


 そんなこと、一言も言ってない。
 なんで聞かないでいてくれるのか。聞いただけ、なのに……。


「ごめんね。会いたくないんでしょ? 今まで嫌なことさせて、ごめん」

「……来てくれて。嬉しかった、けど……」

「嘘。だって、会ってくれないじゃん。初めて会った時以来」

「だ。……って。それは……」


 それでもいいって。言って、くれたから……。