すべてはあの花のために➓


「初対面で、おかしいなって。そう思うでしょ」

「……そんなことは思いませんけれど。少し、驚いてしまって……」


 あと、ちょっぴり怖い。だってまだ心臓が、強く鼓動を打っているんだから。


「いつの間にかみんなとはぐれて、……そこから来たんだけど」

「え」


 いきなりそんなことを言い出した彼が指差したのは、雑木林の方だった。……いやいや。あんなところから来るんなら、お連れ様がいるのって多分大社じゃないですよね。


「それで、どうしようかと思ってたらここに出たんだ。そしたらとっても綺麗な巫女さんがいて。目を奪われちゃった」

「え……」


 今度は自分から彼に視線を合わせたら、彼は慌てて視線を逸らしてしまった。……なんとまあかわいらしい。


「そ。それで。しばらく動けなかったんだけど。……声。聞いて、みたくて。その、綺麗な瞳に。俺を。……映して欲しくて。……っ。話、してみたくて。こんなこと、……思ったの初めてで。どうしたらいいかわからなかったんだけど。……でももう。一目見た瞬間から惹かれて……」

「え。ひ、……一目惚れ、って……」

「……うん。もう、あの一瞬で。俺は君しか目に入らなかった」

「――……!!」


 そう言った彼は、顔を赤くしながらも、わたしに今度はしっかりと視線を合わせに来た。


「好きがわからないなら、俺が教えてあげる。……だから俺のこと、好きになって欲しいんだ」

「だ。……だから、先程はあのようなことを……?」

「だって友達に、今キテるのはロールキャベツ男子って言われたから」

「……ろ、ロールキャベツ?」

「草食に見せかけた肉食。……俺なんか完全に草食だから、いざという時はこうするんだぞって教えてもらったんだ」

「(よ、よくわからないけど、お友達は選んだ方がいいのでは……)」


 でも、初めて聞くような言葉ばかりで、少し楽しい。


「あのね? だからその。……っ、また会いに来るから。また話をして欲しい!」


 必死にそう言ってきてくれるこの人を見ると。……何故だろう。胸がすごく苦しい。


「……そう。言っていただけて嬉しいのですが」


 自分にはもう、相手がいる。それはもう、生まれた時から。


「……会いに来ないと思ってる? 信じられないって、そう思ってるのかな」

「……わたしにはもう。結婚相手がいるんです」

「え」


 望月は代々短命。結婚できる歳になれば、子どもを産まなければならない。神の子になる確率が高い、女児が生まれるまで。


「なので、お気持ちはとても嬉しいです。ですが、あなたにわたしは応えられない。……先のわかっている未来で、あなたがつらい顔をするようなことを、わたしはしたくないんです」


 だからどうか。……ここであったのも何かの縁。
 こんなわたしを好いてしまったあなたに。少しでも、神のご加護がありますように。