すべてはあの花のために➓


 でも、わたしにそんなことはできない。


「申し訳ありません。それはできないんです」


 何故ならわたしは、外と接触してはならない存在だから。今回は、本当にたまたま空気を吸いに出て出会ってしまっただけ。……もう、会うこともない。


「え? ……それは、なんでかな」

「……わたしは、ここから出てはいけないので」


 この社から出てはいけない。出られることなら出たいけれど、出たところで、わたしにはどうすることもできないんだから。


「……なんだ」

「え……?」


 何故か目の前の彼は、嬉しそうに笑った。


「俺と会いたくないのかと思った」

「――――」


 その笑顔が、……わたしにはすごく、眩しく見えた。


「だったらまた、会いに来てもいい?」

「え。……えっと」


 社から出ることは、本当はしてはいけない。よっぽどのことがない限り。食事だって家の人間が持ってくるし、実は結構快適な構造になってたりする。……まあ、神の子と崇めながらも、逃げないようにするためだろうけど。


「だって君はここから出ちゃいけないんでしょ? だったら、俺が会いに来るのはいいんだよね?」

「あ、あの……」


 ここというのは、敷地ということではなく社という意味で。本当は姿さえ、見られてはいけないんだけれど……。


「(だ、だから、会うと言っても、厳密には会えないというか……)」


 でも、普通はこんなことおかしいんだろうし、どうやって言ったらいいだろう。


「あ。……まだあったな」

「え……?」


 何て言ったらいいか悩んでたら、目の前の彼がそう呟く。


「……その人と、たくさん話したいって思うよ」

「え?」

「その人の、凜としてて、綺麗で、澄んでて。でも、かわいい声が聞きたいなって思う」


 まだあった、って。もしかして……。


「その人のこと、ずっと考えちゃうよ。……会えなくても。頭からきっと、離れない」


 覗き込むように、わたしにそう言ってくる。


「好きって、そういうことだよ。だから俺は、会えなくても君と話がしたいなって。声が聞きたいなって思う。……会えなくてもずっと、君のことが頭から離れないと思うよ?」


 ……やっぱり。心がじんと、温かくなるようなその笑顔に、目が離せない。
 会えないことを、彼はもしかしてわかっていて、……わたしにそう言ってくれたのだろうか。……わからない。でもどうしても、自分の都合のいいように解釈してしまう。