「せっかくかっこつけたのに。ダメダメだった」
「え……?」
さっきの、攻め攻めな彼のことだろうか。まあ、その時の彼と今の彼とでは、全然印象が違うけど……。その、今の彼はというと、すっかり頭を抱えてしまっていた。
「……おかしいな。これならコロッといくって教えてもらったのに……」
「(わたし、もう少しで殺されるところだったの……?)」
確かに、死んでしまうんじゃないかと思うくらい心臓は……今でも暴れてるけど。
「君は。……その。好きな人とかって、いるのかな」
「え?」
……好き?
好きって、……なんだろう。
「あの。……好きって、なんですか」
「え?」
あ。……やっぱり、変な質問なんだろうか。
理屈的にはわかってるつもり。でもそんなものも、自分にとっては無縁だ。
……好き、なんて。相手にも想えるわけないけど。枠にはまった自分の人生。……ああ。本当つまらない人生。
「その人と。一緒にいたいなって思うこと。……かな」
「え?」
どうやら彼は、わたしの質問に律儀に答えてくれるみたいだ。でも、何て言っていいかわからないのか。首を傾げながら、悩みながら教えてくれる。
「……その人のことを、見ていたいなとか」
「……!」
そう言いながら、わたしを熱い眼差しで見つめてくる。
「その人に、触れてみたいなとか」
「――……!!」
今度は両手をぎゅっと、握ってこられて。
「その人に、……俺のこと、好きになってもらいたいなって思うよ」
「……。え」
そう言った彼は、頬をまだ赤くしたまま。わたしとの距離をグッと縮めてくる。
「……あの。もしよかったらなんだけど。……俺とまた、会ってくれたりしない?」
「え? ……え?」
「……ダメ。かな」
「ええ……!?」
捨てられた子犬のようにそんなことを言う彼に、今すぐ飛びつきたくなる衝動を必死に押さえ込む。
……なんでだろう。そう言ってもらえてまた。胸が鳴るのは。なんでだろう。わたしも、なんでまた彼に会いたいなんて。……思ったんだろう。



