「あー。……どうしよう」
「……。え?」
でも、やっぱり怖いとは違うんだけど……。なんで指が。体が。……全身が震え。そして、熱を帯びてくるのだろう。
でも彼は、何故か口元を片手で押さえながら、視線をわたしから外している。
「……ど。どうされたんですか?」
口元を押さえているから、気分が悪いのかなと思ったんだ。
「あー。……どうしよう」
「(さっきもそう仰ってましたけど……)」
さっきの攻め攻めはどこへ行ったんだ。今の彼は、まるで頭から煙が出てるように見える。
「あー。……ホント、どうしよう……」
「……えーっと」
今度はしゃがみ込んでしまった。膝の上に肘を置いて、顔を両手で隠してしている。
「あ、あの。本当に気分がすぐれないようだったら、医務室があるのでそちらまでご案内を……」
「……いえ。気分はもう最高なんで」
「は、はあ……」
そういえば、運命がどうとか。一目惚れがどうとか。……仰ってましたねこの人。
「……運命なんて、信じない」
「……え?」
口から、そう零れ出てしまった。でも、本当のことだし。
「いえ、違いますね。……信じたくなど、ないんです」
生まれた時から、決められていたわたしの運命。
ずっとわたしは。この運命に抗うことなく、生きていかなければいけないのだろうか。
「じゃあ、一目惚れは?」
「え……?」
指を少し広げて、その間から見える瞳がわたしを捕らえている。
「……一目惚れ、ですか……」
どうなんだろう。……わからない。そんなもの、自分にとっては無縁のものだと思っていたから。
「だったら、信じてみたりしない?」
「え……?」
いつの間にか顔に当てていた手を、隣にしゃがみ込んでいたわたしの手に、そっと重ねてくる。
「……!」
どうしてだろう。触れられたところがすごく。……熱い。
「目が泳いでる。……大丈夫?」
「――……!!」
もう片方の手は、そっとわたしの頬に触れてくる。
「あ。……熱いね?」
もう。……何がどうしてこんなことに?
ていうか、この人迷子なんだよね? みんな心配してないのかな。
「(でも、この手を振り解こうとか、……ううん。寧ろもっと触れて欲しいなんて思うのは、どうしてなんだろう)」
そう思いながら、ゆっくり視線を目の前の彼へと向ける。
そしたら、彼の手が強張った気がした。それに目も見開いて、だんだん耳まで真っ赤に……。……ん? 真っ赤?
「あ。あんま見ないでよ。……恥ずかしいじゃん」
「え?」
今度は完全に頭から湯気がたくさん出てるのが見えた。……この人、実はロボットだったりするのだろうか。



