すべてはあの花のために➓


「……わたしだって、もっと自由に生きたい」


 あの時、彼が去って行く足音が聞こえ、開けてはいけない戸をそっと開いた。


「わたしと同じくらいの歳だったと思うんだけど……」


 彼の後ろ姿が少し見えた。声からして、まだ少し幼さを感じた。きっとそうだろう。


「あの時の彼が、前の人が不調になった原因なんだろうな」


 神を下ろすと言ったって、そんなのできるわけがない。憑きやすい家系と言っても、本当に憑いたところなんて見たことない。


「……これで、二人目……」


 前の前の人。その人に“洗脳”は効かなかったのか、家を捨てて飛び出してしまった。家も捜したらしいけど、結局見つからなかった。でも、そうなれば替えを使えばいいだけの話。

 神の子、なんて。まあ確かに、小さな頃から頭がよかったけど。……でも。ただそれだけだ。
 血は、確かに濃いだろう。でも近すぎたら、それだけのリスクを負うことがわかったのか。家も、それなりに加減はしてきていた。


「結局は、何かに縋らないと生きていけないような、小心者ばかりの集まりなんだよね」


 誰か一人を犠牲にして、家を神社を、それはそれは神聖に守ってると。そう勘違いしている人間たち。


「わたしは、ずっとこのままなんだろうか……」


 自分の替えはまだいない。自分と同等の、と言えばいいか。そこそこよく見え、そして頭もよく生まれてきてしまったようだから。


「前の前の人は、洗脳が効かずに飛び出した。前の人は、洗脳されてたけど、あの時の彼にある意味洗脳を解いてもらってた……」


 わたしは、どうだろう。一体これから、どうなっていってしまうんだろう。
 別に洗脳されているわけじゃない。でも出ていったところで替えがないのだから、本気で今度は追いかけられる。捜されるに決まってる。


「……あの人は、助かったのだろうか」


 彼女たちとは、確かに血は繋がっている。でも望月の中でも、その中に何本か柱がある。だから、家族という括りでいえば違う。親戚ではあるだろうが。


「……やっぱり、こんなの間違ってるよ」


 間違っていたからって、おかしいからって、自分にどうこうできるわけではない。


「どんなところなんだろう。ここじゃない、外の世界って……」


 ここしか知らない。学校なんか行ったことない。というか、世の中のことなんてよく知らない。
 そんな隔たれたこの小さな世界に、わたしはずっと、囚われているままなのだろうか。


「……ここから出たい」


 見てみたい。わたしの知らない世界。


「ここから、出ないと……」


 神の子になるのは女児が多い。憑きやすいという、家の勝手な考えなのと。何かあった時、女なら力で言い包めることができるから。


「いやだ。こんなところ……っ」


 自分の相手も、もう決まっている。生まれた時から、もう狭い世界が決まっていた。


「こんなところ、……嫌だ」


 いやだ。……いやだ!
 こんな人生。わたしは――……。