「『相楽』さん」
「――!?!?」
ヤバいやばいヤバイーッ! 激突するんだけど――!?
キ――……ッ!! 危うく電柱にぶつかりそうだったけれど、マサキさんの技でなんとか回避。
「……ちょ。……え? えーっと……」
「ちょっとマサキさん! マジでオレ、謝っておいてよかったとか一瞬思っちゃったじゃないですか!」
「へ? 何のことや? ようわからんで日向くん」
「さっき『死んだらごめん』って心の中で謝っただけです」
「いきなり変なこと言うんやもん。驚いたわー」
「変なこと? そんなこと言ってませんよ」
調子を取り戻したマサキさんは、運転をまた再開してくれたけど、オレに視線を合わせようとしなかった。
「えーっと、次は右やったかいな」
「左です」
「おおそうかそうかー」
「そうやって話を頑張って逸らそうと思っても、動揺が半端なくてあんまり逸らせてないですけど」
「何のことや~?」
「……はあ。あの、一回車止めません?」
また車をどっかにぶつけられでもしたら大変だ。ていうかまだオレは死にたくない。ていうか死ねないし。
「何言うとるんや。よう知らんけど、望月が葵ちゃんに関係しとるんやないん? 早よ行って早よ帰ろーや」
「そうやってマサキさんは、何でオレの話を聞こうとしないんですか」
「ちゃんと聞いとるで~」
「そういえばマサキさんって、いつ五十嵐組に来たんですか」
「あ。今のとこ入らんといけんかったな~。Uターンせなあかんわ」
「Uターンしなくていいですよ。というか今の道入ったらだいぶ着けなくなるんで、行く気があるならそのまま真っ直ぐ行ってください」
「……そうかー」
マサキさんはどこか暗い顔をしながらそう言い、車をゆっくりと路地に少し入ったところで止めた。でも話したくないのか、ハンドルに突っ伏してしまった。
「オレが知ってるのは、あなたの名前だけですよ。あと、出身地くらい」
「……そうかー」
さっきからそればっかり。マサキさん、何を考えてるんだろう。
「……なあ。日向くん」
「何ですか?」
ぐっと、ハンドルを掴む手に力が入っている。というか、どこかつらそうだ。背中が少し、小さく見えた。
「……行かな、あかんか……?」
「マサキさん……」
やっぱり行きたくないみたいだ。
それならそうと、初めからきっぱり断ればいいのに。ほんと、……堅気な人だよ。



