すべてはあの花のために❾


「ねえ、いい加減にしてくれない」


 じじ抜きをし始めてかれこれ一時間。みんながあがったのにも関わらず、バカとあいつだけになったら一向に勝負がつかない。


「もうアンタたち二人で罰ゲームにして、飲み物買ってきなさいよ」

「そうだねー。じゃあこれがみんなのリクエストねー」


 そう言って、さっきカナがみんなに聞いていた飲み物リストをあおいに渡す。


「よしチカくん! 二人仲良く罰ゲームに行こうか!」

「あ。そのまま帰ってこなくても心配すんなよー」

「10分以内に帰ってこなかったら、あおいチャンにちかチャンのあのこと、言っちゃおうか。ね? おうり~」

「うんうん! だからさ? ちーちゃんはゆっくり帰ってくるといいよ!」

「あっちゃんは、知りたかったら早く帰っておいでね~」

「おお! オッケー! 任せといてっ!(ばびゅんっ)」

「は!? ……おい! ちょっと待ってえーッ!?」


 慌ててチカもあおいを追いかけて出ていった。


「……で? あのことって何?」


 二人が出て行ってから、オレは何の話をするのかと問いかけた。


「え。なんかないの? ひなクン」

「そうそう。だってひーくんが一番知ってるでしょ~?」

「ま、チカが泣かない程度で頼む」

「あ、アキくんまでそんなこと言うなんて……」


 みんななんだかんだで、あおいと二人きりになれるなら罰ゲームしたかったんだろうなって思う。
 そんなことを考えていたら、あっという間に帰ってきた。しかもチカが腹を抱えている。みんなが思った。よくやったと。


「うっ……!」

「(マジで飲んだし……)」


 ウコ〇の力を飲みやがったあおいが、胸元を押さえて前屈みになる。


「(しかもなんで全部飲んだの。ちょっと試しで舐めてみるとかさ。それぐらいでいいじゃん……)」

「あ、アオイ? ほら、さっき買ったもう一本で口直ししろ? な?」


 チカにそう言われて、もう一つ買っていたカ〇ピ〇ソ〇ダを飲み始めたのだけど、少し飲んだらあいつがガクッと項垂れる。


「(うわ。マジ最悪なんだけど……)」


 ぼたぼたと。オレのベッドに飲み物を零す。しかもみんな、オレのことを気にすらかけてくれない。


「(いやまあいいんだけど、……どうしたのさ)」


 まあ後でチカの部屋と換えることにして、みんなと同じように俯いたままのあおいを覗き込む。


「おいっしい! なにこれーッ!」


 ガバッと顔を上げたあおいは、どこかいつもと違う感じがした。


「(どっちかというと……)」

「えー。もっと欲しい! あ、ツンデレくん。買ってきてよ」

「(え。ツン、デレ……?)」

「はあ。もう、使えないんだから。だったらそこの悪魔くんでいいや。買ってきて」

「(……っ。アオイ、なの……?)」


 なんで出てきたんだ。今、あいつに何があった。しかも、オレまで悪魔なんて言ってるし……。


「へえ。そんなこと言うんだ」


 たとえどちらでも、オレは使う側だし? いい度胸じゃん。


「え? 昨日スリッパ履かしてあげたでしょう。ていうか、あなたシンデレラなの? そんな綺麗な顔してるし、オカマさんよりも女装似合うんじゃない? てかやってたりして! あはは!」

「……はあ?」


 そりゃツバサよりも早くにしてたけどね、そういうこと。……何それ。そんな風に、オレのこと思ってたのかよ。
 それからオカマは悶絶し、エロには迫るし、女王様の胸がどうとか言ってるし、ウサギには酷いことを言い、アカネの告白も公開した。


「なんでわざとみんなに嫌われようとしてるの」


 アカネのその言葉に、一瞬だけ瞳が揺れる。


「(やっぱりアオイだ。でも、またどうして……)」


 しかし、そんなことを考えてるまもなく、アオイがアキくんに飛びかかる。


「えっ。あ、……葵?」

「ふふっ。なあに王子様?」

「(何やってんだよ……)」


 でももう、そんなことを突っ込めない。


「……ん、はっ。……ちょ、ほんとに……」


 アオイがいきなりアキくんを襲い始めたことに関して、誰も動ける人なんていなかった。


「(……な、に。してんの)」


 みんな、きっと衝撃が強すぎたんだ。オレだって動けなかった。……でも。


『わたしが暴走したらさ。……今度は。気絶、無理矢理させて』


 ――ッ、ごめんっ。