翌日。朝早かったけど、みんなほぼ集まっていた。
「おはよ~あっちゃん」
「おはよ」
「あ! キサちゃんヒナタくん、おはよう!」
行く途中でキサに会ったので一緒に来たけど。
「……あれさ。いつ渡せばいいかな」
「え? 別に、キサのタイミングでいいけど……」
昨日のことがあっても、普通に接してくれるキサに助かる。
まあ内心思ってることはあるだろうし、何となくそれもわかってる。でもオレは、それに気がつかない振りをする。
「どうやって渡そうか考えてるんだよー……」
「え? 普通に渡せばいいじゃん」
「普通って何!? ほいってみんなに渡すみたいに渡しちゃあかんでしょ!?」
「そ、……そうですね?」
「これは、あたしに課せられた使命なんだ!」
「そ、そこまで大事では……」
「あたしには! これを無事に終わらせる任務がある!」
「さっき使命って言ったじゃん」
「どっちでもいい!」
「……いや、もういいけどさ。ははっ」
「な、なんで笑うんだ! なら自分で渡せやい!」
「えーヤダ。キサが最後に持ったんだからキサのものだしー」
「な、なんだと!? ……ちょ、日向! 手! ポケットから出してよ!」
「嫌だしー。腕離してくださーい」
朝ご飯取れないじゃん。代わりに取ってくれるのかよ。
「はあ。……まあ、ちゃんと渡してあげるから」
「キサ……」
「でも、あんたの幸せは、間違ってると思う」
「まあオレだしね。拗れてるし」
「だから、なんかあったら言いなね? お姉ちゃんが聞いてやる」
そう言ってキサが、ぽんぽんとオレの頭を撫でる。
「……うん。ありがとうキサ」
それからやっとご飯を取れたオレらは席に戻ったんだけど……。
「もうすでにそんなだと、勝負はわたしの勝ちだけど?」
「別にあおいチャンのこと諦めたわけじゃないし? おれはおれで、頑張るつもりだから~」
なんか、あおいとアカネは勝負をしているらしかった。
「(諦めるとかどうとかって。……もしかしてアカネ、告った?)」
わからなかったけど、なんだかアカネの顔がいつもよりも凜々しく見えた。
それからバスに乗って、昨日言った水族館の近くの施設に行った。
「(あ……)」
バスから降りた時、あいつの首元にハートが揺れているのが見える。
「あ! アオイちゃんどうしたの? それ」
「うん! さっきキサちゃんからもらったの。いいでしょ~」
「あら。よく似合ってるじゃないの」
「そう? やったー!」
そう言いながら、つんとハートに触れるあおいが、小さく笑っていてちょっと満足。
「(でもあれ、ああ見えて最低な代物……)」
ほんと、使いどころだけは間違えないようにしないと。
「……渡したよ? あっちゃん喜んでくれたよ?」
「うん。見ててわかった」
複雑な気持ちであいつが着けてるのを見ていたら、キサが首を傾げていた。
「やっぱり自分で渡したかったんでしょ」
「ううん。そういうことじゃないよ」
「……本当に?」
「うん。だから、ありがとうキサ」
ぽんと。朝のお返しとばかりに頭を撫でたら、キサは「ほんと、困った弟の世話は大変だ」と、ぼやいていた。



