「ちょっとさ、頼まれて欲しいことがあるんだけど」

「ん? ……じゃあ、取り敢えずあたしの部屋来る?」

「うん。すぐ行くから待ってて」


 そう言ってオレは一旦自分の部屋に戻って、あるものを取ってくる。


「キサ? 入っていい?」

「どーぞー」


 ガチャリと開けて入ったら、キサがベッドの上でゴロゴロしていた。


「それで? 頼み事って? あっちゃんとツーショット撮って欲しいの?」

「いや。オレの写真はいらないから」

「日向……」

「これ、あいつに渡して欲しいんだ」


 そう言って渡したのは、あのハートのネックレスだ。


「え? どうしたのこれ」

「あいつさ、気持ち溜め込んじゃうじゃん?」


 キサがあおいに言ったことは、オレが作った、勝手に考えたジンクスだ。
 これは、オレがあいつにした、一番最低なこと。それに、キサまで巻き込んで。ほんと最低だ、オレは。


「へえ! 嫌な気持ちとか吸い込んでくれるんだー!」

「それで、その人の暗い感情を全部吸い込んだ時、ペアになる鍵が現れる。その人が幸せにしてくれるらしいよ」


 そんなもの、あるわけない。これはただ、マイクが入っているペンダントだ。その声を録音はできないけど、リアルタイムでなら聞けるように。理事長からもらったスマホに送られて、聞けるようになっている。


「(はは。ほんと、ここまでいくとマジで捕まる)」


 でもこれは、本当に困った時にしか使わない。それは、理事長とも約束したんだ。


「すごいね! あっちゃんにピッタリだ!」

「鍵もさ、その人が持って来てくれるんだ。だから、その人にそのハートを開けてもらえたら、幸せになれるんだって」


 女子って、こういう話好きみたいだし。あいつも、……まあ食いつくんじゃないのかなって思った。


「でも大事なのは、片時も離さないこと」

「え? そうなの?」

「絶対に外しちゃったらダメなんだって。逆に、悪いのが流れ込んでくるらしい」

「風水みたいだね」

「すぐ着けてもらいたくってさ。ラベルも何もないんだ。だから、キサからあいつに着けてやって欲しい」

「日向が着けてあげたらいいのに」

「オレなんかに着けられても嬉しくないだろうし。すぐ取るよどうせ」

「日向」

「いいの。オレはこれで。キサからって絶対言って。オレのこと話したら、夜中に抜け出してキクの車の中でいちゃついてるのバラすよ」

「なんで知ってるの……!?」


 ほんと、これくらい正直になって欲しい。……あ。肝心なこと言うの忘れてた。


「その負の感情は、着けてるだけじゃ吸い込んでくれないから、必ず言葉にしてって伝えて。こいつが吸い取ってくれなくても、言葉にするだけで楽になることもあるでしょ?」

「……うん。それはあたしも思う」


 防水性にもなってるし、性能もいい。鍵を刺して回せば、マイクとしての機能は失う。何もかもが終わった時は、鍵でそれを解除してあげないといけないんだ。


「(……でも、そうする振り(、、)をするのは、オレの役目じゃない)」


 ちゃんと、ペアはある。
 それを、……あいつに。オレは託すつもりだ。