オウリが自分の部屋に入っていったら、キサとあおいが一瞬目を合わせていた。……何。不満なの。


「お、おい! オレも早く剥がしてくれよ! 誰か来たらハズいんですけどっ!」


 ごもっともな意見だ。ま、ただもうちょっと頭使ってスリッパ脱ごうね、とは思うけど。


「その前にチカくん。君の部屋はどこかね」

「は? お前の隣だけど」


 そう言ったらオレの隣じゃなくてよかったとか言うでしょ? ……ちょっとさ。やっぱりグサッ! てくるわけよ。わかってよ。
 しかも、なんかチカと小麦粉のすごさを語り出したし。息ピッタリだよね、あの二人。バカさが一緒だからかな。
 それもちょっといいなって思うオレは、……やっぱり異常かもしれないって思うけど。


「よーし取れたぞチカくん! さっさとお風呂に――」

「んっ。さんきゅ、アオイ」

「――……?!」


 脱出成功を果たしたチカが、あいつに余計なことをしやがった。


「キサ、濡れタオル」

「ウェットティッシュでどうだろう」

「うむ。よろしい」

「どもども」


 キサからそれをもらって、バカにキスされたところを重点的に拭いて。あとは真っ白な顔を、これでもかと言うほど力を入れて綺麗にしてやった。


「よし。こんなもんかな」

「ひ、ヒナタくん! わたしの鼻はどこにある?!」


 いきなりそんなことを言い出して、どうしたのかと思った。


「は? ここだけど」

「え」


 冗談のつもりで、おでこをつんって突いたら、すっごい落ち込んだんだけど。そんなわけないのに。


「ぶはっ! ば、バカなんじゃないの。……くくくっ」


 マジバカだ。ほんと。最高っ。ははっ。


「あ、あんたバカだったんだね、やっぱり。動くわけないじゃん。……あーしんどー」

「だってすっごい強く拭いてくるんだもん!」

「……そりゃ強く拭きたくもなるでしょ」


 ……っと。何でか、なんて。オレは言えないからね。


「いや、なんでもないよ。……ちゃんと、綺麗な顔してる」


 だからせめてこう言っておこう。……ほんと、あの頃からずっと。かわいくて綺麗だよ。全然変わってない。

 そうこうしているうちに、向こうの棟から連絡通路を走ってくるアホな四人の姿が見えた。まんまとあおいの油地獄にはまって抜け出せなくなっていたけど。
 良心が痛んだのか、アカネとツバサは助けようとしたらしいけど、アカネが立とうとしたせいで助けようとしたあおいまでつるんっと、アカネに覆い被さるように転けてしまった。


「……はあ。アカネもバカだったとは」

「いや日向。あんた、そんな余裕ぶってる場合じゃ……」

「は? 何の話?」


 キサに言われて、どういうことだ? と思ったけど……なんだろう。この感じ。過去に自分も体験したような。


「……お、おおおおお風呂入ってくるっ!」


 真っ赤な顔をして口元を押さえ、その場から逃げるように去って行くあおいと、一瞬目が合う。


「――……!!」

「……?」


 目が合ったら余計慌てて目を逸らされてしまったんだけど。……やっぱり、それはそれで傷ついたりする。


「(でも。アカネも口元押さえてたってことは……)」

「……やっぱり、事故ちゅーか」


 ハッキリ言われると、なんと返していいのやら。ですよね、やっぱり。

 その後あおいへの攻め方がチェンジしたのか、みんなの目が今まで以上にぎらついてた。


「あんたはそんなピリピリしてないんだね」

「まあ事故だし。しょうがないでしょ」


 現に、過去にあいつは同じ過ちを犯している。オレがいい例だ。


「……それで? あんたは帰らないの? 自分の部屋」

「ま、すぐそこだけどね」


 事故現場の目の前だ。……オレ悪いことしてないのに、なんかやだな。油地獄。オレのせいじゃないのに……。