「あのさ。みんながよくわたしのおかげだなんだ言ってるから、この際はっきり言っておこうと思うんですけどねえ」


 ビーチに来たかと思ったら、いきなりそんなことを言い出した。壊れたのかと思ったらどうやらそうではなく、カナがなんかあおいに、多分だけど救ってもらったお礼をしたんだと思う。


「わたしはっ! 当たり前のことをしているだけであって! お礼を言われたくてしているわけではないからねっ!」


 ……当たり前、か。
 あおいが悪いわけじゃないのに、勝手に罪の意識を背負って。当たり前のように。オレらの憂いを、晴らそうとしてる。


「原動力は全て、みんなの中にあったんだ。それに気づいて欲しかっただけなんだよ」


 最初から、全て自分から救えることだって。きっとすべてをわかっているあおいにはできただろう。……でも。


「気づけたから、みんなこうしてるんでしょう?」


 でもそれじゃあ、一人一人の中身までは変えることはできない。それを、あおいは無理をすることで、そこまでを必死に変えようとした。


「わたしはほんとに、最初から最後まで君らを救ったわけじゃないんだよ」


 確かに、無理をし過ぎないように少しセーブをしていたところもあるだろう。でも、逆にそれが無理に繋がってることを、……こいつはわかっているんだろうか。
 丸ごと助けてあげられたらいいのに、敢えてその持ってる力を押し留めて。相手の背中を押してあげるだけで。……どれだけあおいは、無理をしてきたんだろうか。


「みんな一人一人が出した結果。だから、もうわたしにお礼なんて言わなくていいの! わかった!?」


 言わなくていいんじゃない。言って欲しくないんだ。
 あおいにとって、これは罪滅ぼし。自分がしてきたことへの、みんなへの間接的な謝罪と、自分の罪の意識を軽くすること。


「もおー! 思い出しちゃったじゃん! 俺は負けないからーッ!」


 ホテルへ帰るバスの中。手を繋いでいた発端を思い出したカナがまた叫びだして、あおいに口を塞がれて、もう少し遅かったら鼻まで塞がれていた。……どうせなら、一回してみればよかったのにね。

 あおいが見てないところでまたカナが睨んでくるけど、もう流石に無視した。


「(……だから、オレにはオレの幸せがあるんだって)」


 高速バスの中。みんなは爆睡していたけど、オレはただ流れていく景色をずっと見ていた。



「はっ、オレらは別に修学旅行で来たわけじゃねえし?」

「今からあーちゃんと一緒にトランプでもして遊ぼうと思うよ~」

「ちなみにオレらの部屋、あいつらを間に挟むように理事長が捩り込んでくれたので。悪しからず」


 ホテルについて、部屋に戻るだけなのにうるさいうるさい。特にカナ。何が醍醐味だよ。オレが理事長脅したらあの部屋割りに無理矢理捻じ込んでくれて、超ラッキーだけど。


「……っ(ぶるっ)」

「ん? どうしたんだよヒナタ」

「ひーくんどうかしたー?」


 なんだ。今の嫌な感じは。……あ、そっか。なるほど。


「……今すっごい嫌な予感が」

「え。どういうことだよ」

「あ。わかったかも」


 今絶対カナたち急いで部屋に帰ってる。


「おおおお、おい! 急いで風呂入んぞ!」

「ダッシュであーちゃんの部屋に避難だっ!」

「中から鍵掛けたらばっちりでしょ」


 何のために捻じ込んでもらったと思ってんの。そんなの、醍醐味だからでしょ。
 オレらもダッシュであいつの部屋に行こうと、急いで部屋に帰っていった。


「よしオウリ! 通路側はオッケーか!?」

「はい! こちら、かなちゃんたちが来る気配はありませんっ!」

「よしっ! それじゃあ、反対側のヒナタ! そっちはどうだ!?」

「先生たちが、この階に生徒を入れまいと必死に抑えてくれてまーす」

「お、おう。なんという執念……。だがしかしっ! ついにこの日はやってきた!」

「おうっ!」

「早くベル鳴らしてよ」

「ま、待て。押すなよ……」

「ちーちゃん早くっ」

「よ、よし! 行くぞ!!」


 そしてみんなであいつの部屋の前に立った。


「ん?」「え?」「は?」


 立ったけど、……動けなくなった。