「もうすぐ修学旅行だね」

「そうだね! 日向のお土産はシーサーだから!」

「え。いらない」

「ええ!? なんで! いいじゃんシーサー! 沖縄感を日向の家に入れようよ!」

「入れない」

「んー……じゃあヤドカリ!」

「じゃあの意味がわからないー」

「ええ……。じゃ、じゃあ、何がいい?」

「何もいらないー」

「なんで? せっかくなのに……」

「(だってオレらも行くし)」

「……わかった! じゃあ、あっちゃんの写真をいっぱいあげよう!」

「いらないよー」

「ええ!? いっつも盗撮してるくせに!?」

「うん。大丈夫」

「否定しろよ」

「ははっ。……うん。まあ本当だしね。しょうがない」


 わしゃわしゃっと、キサの頭を撫で回す。


「ちょ……!?」

「ほら。早く帰ろ? 帰ってキクんち行くんでしょ?」

「……!? な。なんで……」

「顔に出てる」

「~~っ。……は、早く帰ろう!」

「ほーい。……ははっ」


 これぐらい正直に、あおいもなってくれたらいいのにね。


「「「オレ(おれ)らも沖縄行くから~」」」


 修学旅行直前に、体育祭賞品【いつでもどこでも好きなとこへ行っちゃえヨ旅行券】を使って、みんなと一緒に沖縄へ行くことを伝えた。


「にしてもよう、なんで沖縄なんだよ」

「そうそう」

「お金持ってる人いっぱいいるんだろうし、外国とか行けただろうにね~?」


 案の定あおいの顔に影が差す。それもそうだろう。あおいのパスポートは偽物なんだから。きっと、理事長が考慮したんだろう。
 飛行機の中は、朝早かったせいでみんな爆睡だったけど……。


「……沖縄、か……」


 ぼそりと。どうしてあおいが少し期待半分、悔しさ半分で呟いたのか。この時はまだ、わからなかった。


 沖縄に着いて、ホテルから水族館へと移動中。


「あっちゃん、ミスターコンの人とのキスがファーストキス?」


 いきなりキサがぶっ込んできた。


「(あおいの初めてはオレだしね。みんなの慌てようが超面白い)」


 その話題に関しては撮影係に徹した。
 キサの初めては、まだ好きってわかってなかった時にふざけてやったやつでしょ? ま、キクの方はどうか知んないけど。


「(ていうかみんな、キサとかカナのも気になるんだね。オレ別にあおいのこと知れればそれでいいんだけど)」


 水族館に入って、学割を使わないあおいを見ていたらキサが気がついた。


「……あっちゃん、どうしたのかな」

「さあ。なんでだろうね」


 学生証を置いてきたと言っていた。そんなのは嘘だ。しおりの持ってくるものリストに書いてあったんだから。たとえ偽物だとしても、一応は持って来ていると思う。
 それからこの旅行中どこに行くのかを決めて、水族館を見て回ってたんだけど……。


「(何見てるの……?)」


 水族館に興味津々なみんながどんどん奥へ進んでいく中、あおいが一つの水槽に釘付けになっていた。


「(……儚いな……)」


 すー……っと。その水槽の中に吸い込まれて、そのまま誰にも気づかれることなく消えてしまいそうだった。


「(オレには、あの手を取ることなんてできない)」