そう言って帰ろうとしたら、理事長に引き止められた。
「はいこれね。ちゃんと、ペアと一緒にしておくんだよ?」
「……まあ、一緒にはなるとは思いますけど」
「え? どういうこと?」
「いいえ。大丈夫ですよ。ちゃんと、解除しますから」
「た、頼むよ……? あ。あと、ちょっと携帯貸してくれる?」
そう言われて理事長からもらったスマホを渡すと、彼は少しいじってまたオレに返してきた。
「このアプリと連動してるからね。でも、使うところを誤らないように」
「わかってますよ。それじゃ、お願いしますね理事長」
そうしてオレは、そのまま生徒会室に向かって、みんなが来るまでもらったものを見ていた。
「(これが、ねえ……)」
見た目からは全くわからない。流石海棠というか。やっぱり恐いなって思った。
「あーちゃんとちゅーしちゃいました!」
違うだろうよ報告が!
……何やってんだよマジで。危機感なさ過ぎ。ほんと、それぐらい避けてよ、頼むから。……ま、避けられなくてよかったって、オレは思ってるけど。
「(でも、よかった。オウリの声はじめて聞けた)」
どこか幼さが残る彼の声は、出してない分やっぱりかわいらしい。
「(……いやでもさ、喋れるんなら朝から喋れよ)」
きっと驚かせたかったんだろうなって思ったし、嬉しそうな顔が見られてよかった。
それからやっぱりがやがやしたけど、アカネとカナとチカとオウリは用事があるみたいで、オレとアキくん、ツバサ、キサ、あおいは先に帰った。
「(メンバーからしてあおいについてのことだろうけど……)」
あおいに救ってもらった分、あおいに返そうってみんなが思う。あおいに関わった分、あおいのどこかおかしいところに、みんなが引っかかっている。
「(……みんな、救われた)」
残るはオレらだ。でもきっと、アオイは言ってなかったけど、あおいがレンやカオル、アイのことを知ったら、なんとか助けたいって。……そう、思うんだろうな。
「(ツバサが、父さんの気持ちに気づくことができたらきっと。あいつも救われる)」
……でも、オレは……。
「あ。じゃあオレはここで」
「あたしもー」
アキとツバサにあおいを任せて、オレはキサを送っていく。
「それじゃあな日向。紀紗」
「じゃあね紀紗。……日向、また行くわ」
「そ? まあ頑張れば?」
「……じゃあね。二人とも~」
三人と別れて、オレとキサは足を進めた。
「おじさんとおばさん、まだ喧嘩してるの?」
「はい?」
キサがそんなことを言ってきた。
「だって、離婚じゃなくて別居ってことはそういうことでしょ? だから早く仲直りできるように、日向も翼みたいに頑張らないとね」
「……そうだね」
そうだよ。ほんと。あの時一言、オレが父さんに言っておけばよかったんだ。母さんの気持ちを。まあ、ツバサのあれは一種の自己満足だから、自分で解決しないと意味がない。
「(……もう、過去はやり直せないんだから)」
離れるべきなんだ、みんなから。でも、それができないんだ。恐いから。でも、知られるのも怖いんだ。オレも矛盾してる。あいつと一緒。
「(こんな事実、知らない方がいい。……知られたく、ない)」
……気づかないでと。でも、どこかで気づいて欲しいと。
放っておいてくれと。でも、どこかで助けて欲しいと。
そういう気持ちが、心の中をぐるぐる回る。



