「……おい。おい九条」
「……ん。なに……」
朝登校してから机に突っ伏して爆睡。額が痛い。絶対赤くなってる。
「次、移動教室」
「ヒナター、行くぞ~」
「(こくこく)」
「あ。……ん、わかった……」
重い体を引き摺って、教室を移動する。チカとオウリは、なんだか嬉しそうにしていた。
「(チカの奴。一体あいつに何したんだよ……)」
オウリは……ハッキリ言って、なんで楽しそうなのかわからないけど。
「(いや、こいつもか……)」
オレの隣を歩くレンだって、どこかいいことがあったような顔をしていた。
「……レン。なんかいいことでもあったの」
「え? どうしてそんなこと聞くんだ?」
「なんか。いつもより空気がやわらかい、気がする……」
「……何も、ない」
「(あ。戻った)」
また、誰かと少し距離を置いているような。そんな雰囲気になったレンの顔は、何を考えているのかわからなかった。
それから放課後。チカが、もう吹っ切れたことをみんなに報告していた。
「(ほんと、よかった。チカも。それにあおいも……)」
でも、ちらりと見たあおいの表情は、嬉しい中にもやっぱりどこか暗い気持ちが、見え隠れしていた。
「(……おい。もう一回って、どういうこと)」
チカが、あおいといい雰囲気になってたって、カエデさんが言ってた。みんなも、もう何となくわかったみたいで、目がぎらついていた。
「(了承も無しにするとかサイテー)」
それから、クリスマスパーティーの日にちが決まり、あいつの意見を参考にこれから計画を詰めていこうということになった。
会議が終わったあと、チカと何かを話していたけど、今日はどうやらオウリと帰るらしい。ああ、だから嬉しそうだったんだ。
「(……頑張ってねあおい。きっと、大丈夫だよ)」
迎えに来たエンジュさんの車に乗って病院に行く様子を、みんなで見届けた。
次の日、オウリは『喋らなかった』。放課後までは。でもオレは、ひとまずチカもオウリも、前に進んだ……憂いが晴れたと思って、帰りHRには出ず理事長にお願いをしに行った。
「チカもオウリも、多分大丈夫なんで。あいつ報告しに来るんじゃないかと思うんです」
アキくんに言った時は、あおいの言葉で聞かせるために、始めにオレが隠された隠し扉の中に、アキくんを突っ込んだらしい。その時に、あおいは『願い』を叶えるごとに報告しに来てるって聞いたから、多分今回もそうだろう。カナとアカネの時は頼めなかったけど、今回はなんとかギリギリ滑り込みセーフだ。
「そうか。それじゃあ、ぼくも会話を録音しておこう」
「あ。いい働き期待してるんで、頑張ってあいつから話を引き出してくださいね」
「と。とことんぼくには高度な要求を頼んでくるんだね……」
「要求じゃないですけど。あんたの仕事だって、改めてオレがやさしく言ってあげてんでしょ」
「はい。すみません。棋士殿……」
「……理事長。たくさん駒が増えたんです」
「え?」
「あれから、あいつが願いを叶えるために、バレないよう手を加えたり、その犠牲者をこちら側に引き入れてきたりしました」
「…………」
「ナズナさん。シオンさんにマサキさん。ユズ。エンジュさん。アヤメさんにナツメさん。ツバキさんにイブキさんにカツラさん。そしてカエデさん。それから、雨宮先生にカオルも。……たくさん増えました。たくさん駒ができました」
「……ヒナタくん……」
「でもまだ、ただの駒に過ぎないんです。あいつの、味方にはまだ程遠い……」
「……まだ、先は長そうだね」
「駒にするために、シオンさんにもマサキさんにも、それからカエデさんにも、情報を渡したんです」
「それって……」
「直接的ではないんですけどね。彼らに関わった人を傷つけた犯人は、もう捕まっていること。それから、その事件は繋がっていること」
「結構話したんだね」
「これを話したって、わかりっこないですから。……でも、ちょっと光が見えてきたんです」
「え?」
「理事長も聞いてたんじゃないんですか? 雨宮先生から」
「……うん。まあね」
「カオルもレンもアイも。……きっと、こちら側に付けてやりますよ」
「それは、……難しいね」
「でも、理事長も知っているでしょう? アイもレンも、こんなことはしたくないんだってこと」
「でも如何せん近すぎる。アイくんは特に。月雪くんも、なかなか折れそうにないし。まあカオルくんは、雨宮先生のおかげというか、かわいそうだなというかなんというか」
「(その先生は、あんたが好きですけどね……)」
「日向くん。彼らに接触する時は重々気をつけることだ」
「はい。わかってます。でも、オレにできないことなんてないんで」
「あ、あはは……」
「ま、そういうことなんで。ちゃんと仕事してくださいね」



