それから7時過ぎ。カエデさんの車が待ち合わせの場所に到着した。
「すみません。遅くなりました」
「大丈夫です。……乗ってもいいですか?」
了承を得て、後部座席に乗り込んだ。
「ていうかカエデさん、また煙草吸ったでしょ。臭い」
「え? 何のことだかわかりかねますねえ」
「いや、もう猫被んないでくださいよ。その話し方も」
「悪い悪い」
「(切り替え早……。絶対シントさんがああなのはこの人のせいだ)」
「それで? 録音を聞いて驚きもしなかったってことは、お前さん知ってたな」
「……まあ、知ってないとそもそも助けようなんて思いませんよ。こんなことしてまで」
「そうか」
「でもま、一番知らないといけないことがわからないんですけどね……」
「……道明寺から、アオイちゃんを助けてやらないといけねえんだよな」
「カエデさんは、あの家について何かご存じなんですか」
「知らんこともないが。俺なんかよりもシランの方が知ってるぞ」
「え。皇当主を呼び捨てにしてていいんですか? ていうかあの、……その。お元気で?」
「あいつは昔馴染みでな。今はもうだいぶいいぞ。時々部屋の隅っこにいたりするけど、会話はできる」
「そ、そうですか……」
でも、……そうか。シランさんなら。彼も――……犠牲者だ。
「カエデさん。あの録音したものに関しては、必ず消去してください。もちろんオレに送ったメールも」
「はいよ」
「カエデさんは、あいつから話を聞いてどう思いましたか」
「……何とも言えねえな。でも、助けてやりたいよ。蕾を咲かせてやりたい」
「それを、あいつが望んでなかったとしても?」
「……どういうことだ」
「たとえ話です。あいつが、最低な奴だったとしても、あなたはあいつを助けようとしてくれますか」
「……俺は、回りくどい話は嫌いだ」
「ぽいです」
「お前さんが言うような奴なら、俺はアオイちゃんは助けねえ」
「…………」
「本当に、そうならな」
「カエデさん……」
「違うんだろう? あの話だっておかしかった。聞こえはいいが、蕾はただ振り回されてるだけじゃねえか」
「……カエデさんが、そう思ったのならそうなんでしょう」
「お前はどう思った」
「言ったでしょう? あいつに関しては、誰も介さず、自分で話を聞いてどう思うか。オレの意見を聞いたら、カエデさんの考えに影響が出ます。だからオレは、話せないんです」
「そもそもアオイちゃんを見てて、最低な奴だと思ったことはねえよ」
「……そうですか」
「おう。だから、今の話を聞いた時点でも助けてやりたいって気持ちは変わらねえ。だから、お前にこれを見せに来たんだ」



