「カエデさん。こう言うのはすごく気が引けますが、情報を渡した見返りに今度はオレの頼みを聞いてもらえないでしょうか」

『…………』

「オレの駒になって、一緒にあいつを助けてやって欲しいんです」

『確かに、アオイさんには以前も、アキのことでお世話になっていましたが……』

「協力してくれないって言うなら、カエデさんがまた煙草吸ってたって、奥さんに言いつけますよ」

『え? いえいえ。私はもう禁煙を』

「オレのスマホには、スパスパ吸ってる写真があるんですけど。……あ。見ます?」

『……で、でも、妻の連絡先など』

「そもそも、どうしてカエデさんに連絡できたとお思いで?」

『………………』

「答えは、知っているからですよ。もちろん、あなたの名字が」

『わあー! いいです言わなくて!』

「というのは冗談でもなく本気です」

『そ、そこは、冗談ですって言うところじゃ……』

「オレがあいつを助けたいのは、紛れもない。冗談でも何でもない本当のことです」

『……以前、アオイさんのことを調べた時、何もわかりませんでした。それと関係がある。そういうことでしょうか』

「あるかもしれません。オレの口からは言えないです。あいつのことは、あいつに関わったすべての人が、あいつの口から聞いた真実から判断しないといけないので」

『……アオイさんを助けるためなら、私は手を貸しましょう』

「カエデさん……」

『ですが、いつか必ず理由を聞かせてください。そして、……アオイさんに謝らせてください』

「……はい。その時は、オレも一緒に謝ります」

『このことは内密で?』

「はい。オレのことも、必ず隠してください」

『わかりました。それではまた。アオイさんと話した時は、ご連絡差し上げます』

「はい。……本音を言うと、カエデさん。面白いぐらいとっても素敵なポジションにいるんだもん。早く駒にしたかったんですよね~」

『え』

「いや~いい駒拾った」

『え』

「いい働き、期待してますね? 連絡はいつでもしてきてください。それじゃ」


 そう言って、オレは電話を切ったけど。


「……駒ってなんだよ……」


 一人、カエデは首を傾げていたらしい。


「つかなんで名前知ってんだよ。誰にも言ってねえのに……」


 ヒナタの見方が変わったカエデだった。


 ❀ ❀ ❀


 時刻は2時過ぎ。アオイから電話が掛かってきた。


「もしもし?」

『ヒナタ。体調はもう大丈夫?』

「もうすっかり。あいつのおかげ」

『そっか。じ、実はね、あの……』

「アヤメさんに言ってくれたんでしょ?」

『え』

「お粥も、美味しかったよ」

『……そっか。気づいちゃったんだ』

「まああいつ、お粥の下り隠すつもりないぐらい喜んでたけどね」

『はは。それだけ嬉しかったんだよ』

「うん。……言えてよかった」

『……。ヒナタ。あのさ』

「ていうかチカ捜してないの?」

『ああ。シントに寝かされたんだ』

「そう。まあ、寝てるんならいいや。チカも大丈夫だし」

『……一体何があったの? ヒナタ知ってる?』

「チカのばあちゃんが入院したんだ」

『ええ……!?』

「食中りで」

『ええ……』

「だからそんなに焦ってないし、状況を知ってる人たちは、あいつに丸投げしてバカを捜してもらおうとしている」

『えー……。葵必死なのにー……』

「ま、あいつならすぐに見つけられるよ」

『そうだといいけど』


 それからアオイに修行中、あおいがバカみたいに嬉しげに滝に打たれて、めちゃくちゃ体が痛かったこととかを聞いて電話を終えた。


「それじゃあね。おやすみアオイ。頑張って見つけてあげてねー」

『………………』

「……アオイ? どうしたの?」

『……ううん。何でもない。おやすみ、ヒナタ』


 最後、何を言おうとしたのかはわからない。でも、言わない方がいいと思ったんだろうか、アオイは話してはくれなかった。
 アオイからの電話が終わり、学校に行くまで少し眠っていた時、カエデさんから再び連絡があった。


「ん。メール……」


 病院のことに関して送ったアドレスに、カエデさんからメールが届いた。


「《聞いた方がいい》、か……」


 今までの録音は、まだ一度も聞いていない。あおいに悪いと思ったから。と言っても録音してる時点で最低だけど。


「絶対に聞いた方がいいって。カエデさん何基準……」


 でも、何かあったのかもしれないと思って、カエデさんが録音したものを「……ごめん、あおい」と一度断りを入れて聞いてみることにした。