「カエデさんからか……」


 鍵の掛かった部屋に移動し、鍵を閉め直してからカエデさんに掛け直す。


『もしもし』

「すみません。ヒナタです。電話出られなくてごめんなさい」

『いえ。いいんですそれは』

「どうしたんですか。やっぱりフジ婆に何か……」

『いろいろ聞きたいことはあるんですが。……今、チカゼくんと一緒だったりしませんよね』

「え」

『やっぱり、違いましたか……』

「ちょ、……どういうことですか」

『チカゼくん。どうやら病室に入れなくて、病院から出て行ってしまったみたいなんです』

「あんのバカチカ……!」

『それで、ヒナタくんなら何か知ってるかと思いまして』

「いえ。オレは何も。……今キサとかって、どうしてますか」

『キサさんはチカゼくんを追って病院を出て行ったんですが、途中で見失ってしまったみたいで……』

「そう、ですか。……キクは、病院に?」

『はい。サツキさんからご連絡いただきまして。私と、それからサツキさん。アカリさん。キクさんが、ピンピンしていらっしゃるフジカさんそばにいます』

「え。ぴ、ピンピン……?」

『いえ。はじめはどうしたのかと思ったんですが、どうやら原因は食中りで……』

「…………」

『ヒナタくんも、急いで私に連絡をくださってありがとうございました』

「……あの。チカとは、連絡が取れないんですか」

『はい。なので、大丈夫だということをお伝えして差し上げたいんですが、何分連絡がつかず。キサさんが慌てて捜しています』

「大人組は、バカはほっとけと。そういった感じですね」

『はは。そうですね』

「はあー……」


 人騒がせな一家だ。全く。


「……あの。他にこのことを知っているのは」

『今名前を挙げた方々とキサさん。それから、アオイさんですね』

「え? な、なんで?」


 いや、連絡した方がいいとは思ってたけど。


『キサさんはすぐにチカゼくんを追いかけて行かれたので、初めは原因をご存じなかったんです。それで、助けをアオイさんに求めたらしく……』

「なるほど。それで? 今キサとあいつは?」

『キサさんは、連絡したら繋がったので病室の方に帰ってくると。チカゼくんは……アオイさんに任せておいたらいいだろうということになりまして』

「とってもいい判断だと思います。チカに関してのみんなのドライさ、オレ好きです」

『それは、……よかった、のでしょうか』

「まあメールか何か送っておけばバカもそのうち気づくでしょう。あいつには連絡は入れないでください」

『はい? まあ、放っておこうという意見に皆さん賛成だったので、アオイさんに丸投げするつもりではいましたが……』

「今、あいつにもチカが必要なんで。行かせてやって欲しいんです」

『と、いうと?』

「チカのことも、アキくんと一緒で救ってくれるってことですよ。カエデさん」

『……ヒナタくん。少し、伺いたいことがあるんですが』

「はい。オレも、カエデさんにお話ししたいことがあるんです」


 それからオレは、カエデさんにも同じように、あおいとの会話を録音するようにお願いした。


『何故またそのような……』

「こうすることでしかあいつを救えないと、オレが思っているからです」


 あいつがみんなの前で話せないのなら、誰かに話した真実を、みんなが聞く必要があるんだ。


『にしても。……それは本当のこと、なんですか』

「はい。紛れもない事実です」


 コズエ先生のお母さんは、チカの両親を追い詰めながらも、本当は守ることに徹していたから手は下してはいない。手を出したのは、アキくんを誘拐しようとした奴と同一人物。そいつらは、今はもう警察に捕まっている。
 そいつらはチカの会社を内側からじわじわ攻撃していった奴らだ。アオイからは、そいつらはアキくんのことがあってしばらくして捕まったんだと、教えてもらった。……ま、根本はあの家に違いないけど。