すべてはあの花のために❾


 あおいも、そっとオレに腕を回して体を預けてくる。


「……っ、ちがう……」

「え? ど、どうしたの?」


 そうじゃない。いや、それもあるんだけど。


「……わかってたんだ。ちゃんと」

「ん? ……何を?」


 オレが話しやすいように、背中をやさしく撫でてくる。


「……っ。ちゃんと。一人に。なりたいんだろうなって……」

「…………」


「オレらに。……バレたく、ないんだろうなって。わかってたんだ」

「…………」

「言いたくないんだろうなって。……ちゃんと。わかってた……」

「…………」

「だから。……一人に。させてやりたかった。本当は。……でも。心配、だったんだ。みんな」

「……うん。ありがと」

「ほんとは。止めてやるべきなんだろうって。思っても無理で。……トーマとツーショット写真来るし」

「え」


 そっと腕を放してあおいを見ると、苦笑いをしてた。


「何撮ってんの。嬉しげに」

「えー……。無理矢理だったんだけど……」

「……わかってるけど。嫌だったんだって」

「……? ひなた、くん……?」


 いや、違う。こんなことが、言いたいんじゃなくって。


「……謝り。たかったんだ」

「え? な、なんで?」

「わかってたのに。ちゃんと。……一人に。なりたいんだろうって」

「…………」

「わかってたのに。みんなを止めなかった。オレだって。……来るべきじゃないって、わかってたのに。……結局バレるし」

「…………」

「だから。……ごめん。ちゃんと、わかってるんだ。でも。それができなくて。止めらん。なくて……」

「……うん。十分だよ。ありがとね」

「十分じゃないっ。絶対、わかって、ない」

「ううん。ヒナタくんちょっと熱で変になってるけど、でもちゃんと伝わってるから。大丈夫」

「……変じゃない」

「はは。……うん、そうだね」


 目の前のあおいが、綺麗な顔で笑う。そしたら勝手に、あおいの頬に手が伸びた。


「……ちゃんと、伝わってるよ? 大丈夫。わたしのこと、わかってくれてありがとう」

「……無理。しないで」

「え?」


 オレの手を、払いのけようともせずに、あおいは手を添えながらこてんと首を傾げる。


「修行も。……無理、しないで。危ない」

「……そうか。猪狩りはやめておこう」

「熊もダメ」

「お、おう……」

「……強く、なるの……?」

「え? どうして?」

「修行って、言ってたから……」

「……うん。心、強くしようと思って」


 あ。話してくれてる。でも、録音なんて。できない……。


「みんなにね、心配掛けたくないんだ」

「……。わかってない」

「ううん。ヒナタくんが言ってくれたことは、十分わかってるよ? 伝わってる。……でも、わたしの気持ちもわかって欲しいの」

「……わかる」

「え?」

「みんなに、……心配掛けたくないから。オレだって」

「ヒナタくん……」

「でも、オレの気持ちもわかって」

「………………」

「わかる。わかるよ? 自分は心配掛けたくないのに、みんなやさしいから、手を差し伸べようとしてくれる。……でも、それは取れないんだよ。どうしても」

「……ひなた、くん……?」

「でも、オレはみんなが心配なんだ。助けてあげたいって思う。……わかるよ、矛盾してるんだって。オレだって。そうだもん……っ」

「……そっか。一緒、だね」

「……オレの、心配。あんたなら、していい」

「え?」

「だから。……オレは、あんたの心配。させて欲しい」

「……ふたりで?」

「……。だめ……?」

「……決めらんないや」

「なんで……?」

「やっぱり、わたしのことは、誰にも心配掛けたくないから」

「オレだってそう。言いたくないこと、あるもん」

「でしょ? だったら……」

「いつかで、……いいから」

「え……?」

「今は、決められないんでしょ? オレだって、提案したけどやっぱり難しいもん」

「そ、そう……」

「……いつかさ。今はまだできなくても、またさ? 心配の掛け合いっこ、……しよう?」

「ははっ。なにそれ」

「間違えた。心配し合いっこ」

「一緒じゃん。……ははっ」

「……笑ってて」

「え……?」