すべてはあの花のために❾

 ――――――…………
 ――――……


 熱が上がりきったのか。少し怠いくらいで、そこまでしんどくはなくなった。


「……のど。かわいた……」


 今のうちに飲んでおこうと体を起こしたら、部屋の扉が開いた。


「……体調、どう?」


 あおいが、心配そうな顔をしながら布団のすぐそばに座ってオレの額に手を当てる。


「あっついねー」

「うん。今、上がりきったから、さっきよりはしんどくない」

「……そっか」


 そう言ってまた頭を撫でてくる。やっぱりそれだけで、気持ちがいい。


「……行くの?」

「え? ……うん。そろそろね、行こうかと思って」


「蓋開けよっか?」と言われたけど、「大丈夫」と言って、キャップを開けて喉を潤す。


「……そっか。行くんだ」

「付いててあげたいのは山々なんだけど、お寺の方にももう連絡入れてるし……」

「うん。大丈夫。心配しないでいいよ」


 力なく笑いながらそう言うと、あおいが悲しそうな顔をする。


「……心配、させてよ」

「え……?」

「ヒナタくん、つらそうだよ。わたしは、心配もしちゃいけないの? なんとかしてあげたいって、思ってもダメなの?」


 オレの熱い手を握りながら、あおいの方がつらそうにそう言ってくる。


「……ううん。だめじゃ、ない」


 心配掛けたくなくて、そんな顔させたくなくて、そう言ったのに。そんなつらそうなら、ダメなんて言えないじゃん。


「そっか。よかった」

「……でも、それはあんたもだから」

「え――」


 腕を引いてあおいを引き寄せ、肩に……いや、首元に顔を埋める。


「ひなたく」

「心配、した」

「……!」


 溢れそうな思いを、なんとか押しとどめながら、そうこぼす。


「文化祭だって。一人でどっか行って……」

「あれは……」

「ミスコンで勝手にキスされて……」

「あ、あれは……あはは」

「カナんちで無理して。倒れて」

「……ごめん」

「病院でも倒れて。オウリの家では寝ないし。泣いてるし」

「……すみません」

「誰にも。何も言わなくて。こんなとこまで来て」

「……うん。ごめんね」

「なのにトーマには言うし」

「……まあお世話になるしね。ご挨拶しないと」

「……っ。下僕のくせに。心配、かけんな……っ!」

「――! ……ひなたくん……」


 あおいの腰に腕を回して、ぐっと引き寄せる。


「ばかばかばかばかばかばかばかばか」

「いやいや怖いわ」

「……ばか」

「……うん。そうだね」

「あほ」

「うん。主に心配掛けるなんて、わたしは大馬鹿者のアホんだれだね」

「変態」

「おう。それも治してこよう修行で」

「心配ぐらい。……オレも、する」

「え?」

「心配ぐらい。……させろって言ってんの」

「……ありがと」