誰に向けて、このイライラをぶつけてやろうかと思っていたら。


「ごめんね~すなーおじゃなく、……って。え?」


 って歌いながら、あおいが入ってきたし。
 一番会っちゃいけないでしょ。一番心配掛けちゃダメでしょ。バカでしょオレ……。


「……音痴、だね」


 隠そうと思っても隠せないから開き直ったけどさ。……あおい、もうちょっと歌上手いじゃん。どうしたのさ。


「……ひなた、くん……?」

「いえ違います。親戚の子です」


 とか、この期に及んで無理なことを言ってみる。頭やっぱりぶつけすぎておかしくなったかも。


「えっ!? どうしたの……!?」


 座り込んでるオレのところへ駆け寄ってきて、そっと手を額に当ててくる。汗ばんでるのに。……汚い。のに……。


「……ちょっと。逆上せた」

「嘘ばっかり! すごい熱だよ! ……ちょっと待ってて。今アヤメさんを」


 慌てて呼びに行こうとするあおいの手を、必死に掴んで引き止める。


「……言わないで」

「ヒナタくん……」

「心配。かけたく、ないんだ」

「でも、こんなになってるのに……」

「ダメ、だ。みんなの。オレが、足引っ張ったら……」

「……? みんなも来てるの?」

「……。ん」

「そっか」


 あおいは小さく笑って、立ち上がろうとした腰を下ろし、オレのそばに座ってくれる。


「……ダメだよ。あんたにも。遷すかも……」

「大丈夫。わたし風邪って引いたことないから」

「なんとかは、風邪引かない……」

「はは。……うん、そうかもしれないね」


 そう言いながら空いてる方の手で、オレの額や頬に手を当ててくれる。


「(……きもちい……)」


 異常なほど冷たいわけじゃない。オレの体温の方が異常に高いから、こいつのひんやりした手が心地よかった。……でも。


「……オレ、汗かいたから。汚いよ」

「そんなことないよ? 風邪引いた時は汗をかいた方がいいし。でも、気持ち悪かったらタオル濡らして」

「ん。あんたの手がいい」

「……そっか。こんな手で、よかったら」


 ほんの少し、あおいの顔に影が差した。また、罪悪感を感じてるのかな。


「……はあ。はあ……」


 流石につらくなってきて、あおいの手もオレの体温で熱くなったから、冷たいタオルで顔や首を冷やしてくれた。


「このままだとつらいでしょ? せめて横になろう?」

「……離れ。みんなが。いるから……」

「離れにみんな泊まってたんだね」

「……うん」

「それじゃあ、わたしの部屋ならいい? お布団も、昨日わたし使ってないから綺麗だし」

「……また、寝てない」

「え?」

「寝てよ。……お願い。だから……」


 ……あーもう。座ってるのさえ怠い。
 前に座るあおいの肩に、頭を乗せてもたれ掛かる。


「ひなっ」

「心配。するじゃん……」

「……ごめん」

「……ちゃんと寝て。何よりも。一番に……」

「……うん。わかった」

「ん。…………はあ」


 息も上がる。……ほんと、もう限界。


「うわ! ……ちょ、ヒナタくん?」

「……布団。貸して……」

「もっと早く言えばいいのにい」

「頑張れるかと思ったら、……ちょっと無理だった」

「頑張るとこ間違えてるよ」

「はは。……うん。そうだね」

「……歩ける?」

「……むり」

「わかった。それじゃあ運」

「お姫さまだっこは嫌」

「いきなり元気になったね……」

「それだけは、男のプライドが許せない」

「え。みんなのことそれで運んでるんだけど……」

「うん。あんたみんなのことそれでめっちゃ傷つけてる」

「マジか」

「うん。マジ」

「……ど、どうやって運んで欲しいっ?」

「……男として、女に運ばれること自体もうプライドが傷つく」

「ど、どうしたらいいんだ、わたしは……」

「……頑張って、歩く……」

「え。で、でも……」

「なんか。ちょっと歩ける気がしてきた」

「火事場の馬鹿力か」

「ちょっと違うしそれ……」