「ナツメさん。戻りま――ガン! ……した……」

「ひっ、日向くん? 大丈夫かい……?」


 車に乗り込む時、思い切り頭を屋根にぶつけた。
 ……めっちゃ痛い。おでこ、絶対へこんだし……。


「……だいじょうぶじゃないです……」

「こ、氷。コンビニで買おっか」

「あ。大丈夫です……」

「い、いらないってこと……?」

「はい。多分寝ぼけてるんで、朝またお風呂入って眠気覚まさせてもらっていいですか?」

「もちろん。みんなにバレないようにするのはいいけど、体調には気をつけてね」


 ナツメさんからもらった栄養ドリンクを飲んだあと、家に着くまでの少しの間また死んだようにオレは眠った。


「ナツメさん。助かりました。ありがとうございました」

「うん。俺は時間までもう少し寝ることにするよ。君も、もしあれなら寝るんだよ?」

「はい。ありがと――ゴツン! ……ございます……」

「だ、大丈夫……?」


 車からまた降りる時に、頭をぶつけた。頭が変な形になりそうだ。
 それから、一旦離れに戻ったら、案の定まだみんな爆睡してたけど。


「(どんだけ寝相悪いんだよ……)」


 やっぱり悲惨なことに。誰がって? キサだよキサ。大の字になって寝てて、男共が壁際に移動してる。オレ、寝なくてよかったのかも知れない。
 着替えを鞄から取って、お風呂をいただくことにした。道場からは凄まじい音が聞こえてきて、ああまだ稽古してるんだなって思ったけど。


「(一人でそこまで激しい音出すって、そりゃ道場借りないとダメだね……)」


 そんなことを思いつつ、ふらつきながらお風呂場へと向かった。


「……あー。何かおかしいと思ったら……」


 だんだん頭ががんがん痛くなってきた。さっき頭をぶつけたせいじゃなく。


「……ま、ここんところくに寝てないしね……」


 でも、せっかくみんなは観光楽しみにしてるんだから、オレなんかが足引っ張ったらダメだ。
 誰にも心配なんて掛けたくない。こそっとアヤメさんに解熱剤があるか聞いてみよう。


「っと。……やば。本格的にふらふらしてきた」


 目の奥が熱い。結構高熱か。
 風呂でかいた汗を洗い流してなんとか着替える。


「あ。……でも、どこ。行けばいいんだっけ……」


 離れには戻れない。アヤメさんは、台所かな。
 でも立っていられなくなって、取り敢えず壁にもたれ掛かって座り込む。


「……ちょっと。落ち着いてから。行こう……」


 吐く息さえ熱い。
 ……どうして。家にいる時はこんなこと、なかったのに。誰だよ、オレに遷した奴……。